サマーキャンプレポート
総本部 多田 英史(川保天骨)
※川保天骨(かわほてんこつ)は多田英史指導員のペンネーム。出版関係ではこの名前で出ています。
朝の出来事で中年のパワーがさく裂!
さて、西日本のサマーキャンプですよ! 東京の練馬支部所属で本部の指導員でもある私は、基本的にこの西日本のサマーキャンプに参加する義務はないんです。今回参加と相成ったのはいくつか理由がありまして。以下に列記すると、まず、現在私が作っているムック『ドラゴン魂2』のネタ集めがひとつ。普段あまり接することのない西日本の大道塾生への顔出し的なものがひとつ。それから現在全日本空道連盟が進めているアンチドーピングセミナーのお手伝いがひとつ。もうひとつは、現在仕事の事でムシャクシャしていて「気分転換に旅にでも出るか!」というのがひとつ。まあ、全体的に考えると「お前なんか来なくてもいい」レベルですが、それもご愛嬌という事で。
「早いわよ~。朝7時に道場集合だからね~。天骨ちゃん。大丈夫?!」「もちろん大丈夫ですよ。心得ております。ご安心ください」的な会話を奥様とした20時間後ぐらい、朝の7時に私の携帯電話が鳴った。ベッド脇のテーブルの上に携帯電話置いていたんですね。2コール目ぐらいで取りました。
「天骨ちゃん、どこいるの?」奥様です。ちょっと戸惑っている感じでした。「え、あっ!」こういう事、今まで生まれて3回目ぐらいです。
「今、自宅のベッドで寝ております」
「…………、えええ~」奥様、驚いているようです。もちろん私も驚いてますよ。
「ああああ~」私は返す言葉ないですよね。
「ええええ~。じゃあ、天骨ちゃん、直接東京駅に来て! ホームで待ってるから8時ちょうどの新幹線だからね!」
「オス、わかりました! 向います!」
というわけで、顔も洗わず、歯も磨かず、トイレにも行かず、ベットから出て即ズボンを履いてリュック背負って自宅を飛び出したのが7時3分。逆にすごいっすよテンコツ! 幸い前日、リュックを背負って行けばいいような状態に準備だけはしていたんですね。目ざまし時計掛けてたんですが、鳴ったのか、自分で止めたのか、記憶にない……。
とにかく全速力で駅に駆けつけるのだが、履きモノのチョイス間違ってて……、雪駄なんですよね。「パタパタパター」って駆けるたびにちょっと、大のオトナが出したら恥ずかしいような音がするけど関係ないね! 走ってると汗がだらだら出てきて目に入る。Tシャツが濡れてきた。オシッコしたい! こういうパニック状態になった時、私、自分が試されてると思う事にしてるんです。
「これは絶好のチャンスだ! 私の運、私の意志、私の存在が試されてるんだ! 駄目だったら駄目で仕方ないじゃないか! その時はきっぱり謝ろう。命取られることもあるまいて!」こういう図太い神経を持つようになったのは40歳超えてからですかね。
池袋駅に着くぐらいになるとだんだん自分を取り戻してきてる。時計を見るとなんとか間に合いそうだ! よし! いいぞ! 丸ノ内線から降りて、最短の距離を突っ走って新幹線乗り場に向かうべく、私は東京駅構内の図をスマホで調べてそれを頭の中に叩き込んだ。駅に到着したのが7時52分。丸ノ内線からひとりの中年オヤジが今、飛び降りたよ! 「パタパタパターッ」と走りながら、目をギョロギョロさせ、歯をキッキと剥き出して改札を突破した! 走る事に集中してるので周りの景色が見えないし、音も聞こえない。まっすぐと新幹線乗り場への道を突き進んでいく。これがオヤジパワーだよ! 若者諸君! 君たちに出来るか?! この真似が!
ホームに着いたのが7時55分。つまり練馬の自宅ベットから飛び起きて、新幹線のホームに到着するまでのタイムが55分という、驚異的な数字を叩き出してしまってるんですね~。私はあきらめないよ!
新幹線の乗り口で奥様が「天骨ちゃん、こっち! こっち!」みたいな感じで俺に手招きしているのが見えた。「やった、俺はやった! 俺はやったんだ!」という感慨を押し殺しながら「オ~ス! 奥様~!」申し訳なさそうな顔をした俺は導かれるまま席に着いた。先生と由美子さんは前の席に座っていた。責めるでもない、怒るでもない、むしろ、私が時間に間に合ったことに安心しているような感じだったので、そのまま私は自分の席に座って窓からホームを見ていた。「俺はやった…」
二人の中年塾生が右往左往する
というわけで、その日に使うべきエネルギーの90パーセントぐらいを朝使ってしまったような感じになってますよねコレ。
名古屋経由で伊賀に到着。そして名張支部の中西支部長とお弟子さんのお出迎えを受けた。昼食にレストランで鹿肉のどんぶり食べた頃には、このくたびれた中年も多少エネルギーが充てんされて復活してきたようですよ!
今回泊まるホテルはすごく立派な感じですね。私と相部屋は大分道場の藤田斉(ふじた ひとし)。彼は数少ない同期なんですよ。私は彼の事を下の名前を音読みで「サイ」って呼んでます。
「おお、サイ、久々やのう。相変わらず面白い顔しとるのう」
「ハフハフハフ~、天骨、どうやって来たん?」
「そんなん、知らんがな」
我々の会話は第三者が聞くと、話している内容がほとんど無意味なので、白痴の会話にしか聞こえないでしょうな。
3時から稽古ということで、2時30分に下のロビーに集合という感じの事をどこからか聞いて、我々は自分たちの部屋でしばし休憩することにした。ベットで横になりながら第三者が聞いたら絶対理解できないようなナンセンスな会話を1時間ぐらいしていたら2時25分ぐらいになった。「そろそろ行くか」ということで我々は下に降りて行ったのだ!
一階ロビーは予想に反して静かだった。一人もいない。「あれ~、まだ早かったんかのう」フロントを通り過ぎて外に出たが、外にも誰もいない。
「ああ、もしかしたら、ホテルの裏に体育館みたいなのがあったからアレやないのか?」サイが言った。確かにそれらしき大きな建物があった。「ああ、そうか、歩いて行けるところやな」
我々はホテルの駐車場の奥にある建物に近づいていった。たぶん、二人とも阿呆(アホウ)みたいな顔をしていたと思う。しかしその建物もガラーンとして静かだ。「誰もおらんやんけ!」と私。「ああああ~」とサイ。ちなみに我々は同じ歳で45歳のオッサンです。
「ちょっとフロントに聞いてみよう」すでに時間は2時35分を回っていた。
「あの~、すみません」フロントで一番地位が高そうな男性を選んで私は聞いた。「このフロントの前を白い服とか青い服着た人が何百人か通りませんでしたか?」
すると以外にもフロントの男性は不思議そうな顔をしながら「ええっと、いや~どうかな……。四、五人パラパラとは見ましたが……、何百人もは……」それを聞いて私は確信した。「やっぱり、皆まだホテルにいるんだよ! どういう事なんかな?」
サイの顔を見ると何だか不安そうな顔になってる。「そうだ! 最初に受付チェックした四階におるんやないんか?」とサイが言った。「おう、そうじゃ! そうに決まっとる」二人の薄らトンカチはエレベーターに乗った。普段使わない脳細胞をフル動員してオッサン二人が必死にあえぐ様子が興味深い。
四階のドアが開くと加藤久輝選手含むその他の塾生4人が立っていた。「オ~ス」四階はその4人しかいないようだ。彼らは一階に行くという。我々も四階で降りる意味はないと判断して、自然な流れで彼らの後をついていく事に。サイの顔を見ると何だかホッとしたような感じだった。彼ら4人はそのままフロントを通り過ぎ外に出て駐車場に向かって自分たちの車に荷物を積み込み始めた。途中で何かを察し、ついていく事を止めた我々二人は、その様子を200メートルほど離れたところから茫然と見ていた。
「ああ~、彼らは車で行くようだねぇ」私は感心したような感じでそう言いながらサイを振り返った。先ほどホッとしていたサイの顔が不安に曇っている。
再びフロントに戻り私は先ほどの男性スタッフに問いかけた。「あの~、すみません、このフロントの前を65歳ぐらいで身体がガッチリしている男性、ショートカットでメガネかけた女性、30代のロンゲの女性の3人グループは通りませんでしたか?」すると「いや~、見てないですね」と男性。「部屋に内線で電話掛けてください」
その男性スタッフが先生と奥様の部屋に内線をしてくれたが誰も出ない。ここにきて、ようやく我々はホテルに取り残されている事に気づくんですね~。チンパンジー並、いや、もしかしたらそれ以下の知能しか持ち合わせてないかも知れませんぞ! この二人は!
サイを見たらなんだか不安の絶頂にいるような顔になってる。「ドヨヨ~ン」って感じ。心なしか、唇が紫色になっている。人間というのは周りの状況、どんな些細な環境の変化にも影響されて、喜んだり、驚いたり、悲しんだり、安堵したり、不安になったりする。そういう生き物なんですね~。
携帯電話を部屋に取りに行き、ついに由美子さんに電話掛けた。2時45分過ぎだった。もっと早くかけろよ! って感じですけど。
「あの~、由美子ちゃんどこにおるの?」
「え、天骨先輩どこにいるんですか?」本日2回目の「どこにいるんですか?」質問ですね。
「え、ホテルのロビーです」
「ええ~! 何でですか?」
「いや~、本当に何が何だか全然わからないんですよ」
というわけです。結局我々はタクシーで行く事になった。武道場まで25分ぐらいかかるらしい。絶対遅刻ですよ!
「俺はなぁ、3時集合やったら1時間前の2時に到着してその集合場所を双眼鏡で見とるような人間なんじゃ~。どうしよう?!」サイが言った。
「はあ? お前、アタマおかしいやろ。そんなん、集合場所、双眼鏡で見とってもう一人のお前がそこに集合しとったらどうするん?」
「どうしよう、先生に怒られる」サイは私のナンセンスな話には付き合わず、怒られることをやたらと恐れているようだ。現場到着したのは3時20分ぐらい。先生はそんなに怒っている様子はなかった。良かったね。サイ。
あ、私ですか? 私は怒られても落ち込んだりしないタイプなんで大丈夫ですよ! 心臓に毛が生えてますから!
それにしても、未だによく解らないのは、集合時間はいったい何時何分だったのか? 私が聞いた2時30分というのは幻聴だったのか。それから今回参加してる塾生数は200人超で、それぐらいの大人数がホテルから武道場まで全員移動したんですよね。言ってみれば民族大移動みたいな様相を呈するはず。しかしフロントの男性は「4、5人パラパラと」しか見てないと。これ謎ですよね。意味が解らんですわ~。
というわけで、稽古場所に集合するまでの出来事でほとんどこのレポートを終えようとしているわけですが、サマーキャンプの内容に関しては色々な人が詳しく、きっちり書いてくれるでしょ! 完全に人任せですね。
東塾長が「天骨はあれで社長が務まってるのかね?」とポロっと漏らしていたそうですが、なんとか大丈夫じゃないでしょうか。ハイ。
西日本の合宿で会った皆さん! ありがとうございました! また会いましょう! それまでサヨナラ!