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サマーキャンプレポート

中国四国支部 支部長 村上 智章

2015年度 大道塾 西日本地区 サマーキャンプ参加レポート
(アンチ・ドーピング説明会を中心に)

8月29・30日の二日間にわたって、忍者の里三重県伊賀の地で開催されたサマーキャンプに参加させていただきました。中四国本部の自分がどうして西日本地区のサマーキャンプに参加したかというと、今年度のサマーキャンプでは、先般5月の体力別・シニア大会の時に開催された「第一回 アンチ・ドーピング説明会」に引き続き、東北・関東・西日本地区で筑波大学の渡部厚一准教授を再びお招きして「第2回アンチ・ドーピング説明会」が説明されることとなったからです。アンチ・ドーピング委員会の副委員長を拝命している関係上、説明会には何としても出席すべきと考え、今回は自分の予定と折り合った西日本地区のサマーキャンプに参加させていただきました。自分は22・23日に開催された九州・沖縄地区サマーキャンプにも参加しており、2週間連続のサマーキャンプとなりましたが、旧知の方々との出会いも楽しく、いつもと違うところでのサマーキャンプの面白さに目覚めました。悠々自適(?)が許されるようになったら、全国サマーキャンプめぐりもありかな、と勝手に思っております。キャンプでの稽古、審査等もいろいろと印象深かったのですが、ここでは29日の夕刻に開催された「第2回 アンチ・ドーピングセミナー」についてレポートさせてもらいたいと思います。

講師の渡部先生は、先般のロンドンオリンピックでも水泳日本代表のチームドクターを担当されるなど我が国スポーツ医学の最前線に立ち、アンチ・ドーピングに関しても研究・実践活動を積極的に展開されている方で、ご経歴、お話を伺えばうかがうほど、正直な話、「よくこうした先生を空道普及運動(?)に巻き込めたなあ、これはラッキー」と思える先生です。

講師のご紹介の後、本年7月21日に全日本空道連盟が「公益財団法人 日本アンチ・ドーピング機構」に加盟したことが報告されました。空道の社会的認知がさらに進んだという意味で喜ぶべきことですが、このことは同時にこれから2~3年以内に空道連盟としてドーピング検査が実施されるということを意味します(※大変です)。塾生のひとりひとりがアンチ・ドーピングについて十分に理解し、協力することのできる体制を作らなければなりません。後述する「競技会外検査」のことを考えると、アンチ・ドーピングはほとんどすべての塾生に関わるテーマであり、指導者、選手を始め、あらためてアンチ・ドーピングについて、基本的な知識を習得しなければなりません。

セミナーの詳細を理解するためには、参加者に直接聞くことないしセミナーで配布された資料を直接読むことが一番ですが(その意味で、セミナー参加者は、自分の支部に帰ってからセミナーに参加できなかった塾生にしっかり内容を説明できるようにしてほしいと思います)、参考のために、以下、非常におおまかですが、当日の講演について、私なりに理解したことを述べたいと思います。

ドーピングの歴史 ドーピングとは何か

まずはドーピングの歴史。近代オリンピックの歴史(第一回は1896年ギリシャオリンピック)が始まったころからドーピングは問題視されてきましたが、1960年の第17回ローマオリンピックにおいて興奮剤による競技中の死亡事故(自転車競技)が発生、次の東京オリンピックはドーピング対策の必要性が強く叫ばれる、いわばアンチ・ドーピング元年となり、以後、ドーピング検査の導入、充実が図られることとなったとのこと(※歴史的に考えれば、競技パフォーマンス向上を目的として、健康・生命に危害を及ぼす可能性のある物質を摂取することが第一に問題とされ、そうした物質の摂取をいかに防ぐかが課題となったといえる)。

当初は、IOC、各競技団体が検査を行っていたが、公平性、中立性確保の必要から、現在は世界ドーピング機構(WADA)が、検査を行う機関の中心となり、わが国においては、1999年のWADA設立を受け、2001年に設立された日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が、アンチ・ドーピング活動の中心となっている。

どういった練習方法、技術が勝利につながるのかを日々選手、そして指導者が模索するのと同様、いったいどのような物質あるいは方法が(たとえ選手に危害を及ぼすものであっても)パフォーマンスの向上をもたらすのか、ドーピングの世界も日進月歩、その結果が膨大な禁止物質の羅列ということになっているようです

※手元にある日体協監修の『JPNドーピング・データベース 第2版』(2010年発行)では、「JPNドーピング・データベース(WADA2010年禁止票国際基準より)」の項が7頁~73頁にわたって禁止物質を記載、ネットで閲覧、印刷可能な「世界アンチ・ドーピング規定 2015年禁止票国際標準」は、30ページ余りのボリュームでその大半が物質名の羅列となっている。当然、素人=私は覚えきれないが、後述するようにポイントをおさえ、制度を整えればアンチ・ドーピングはわれわれでも十分に対処可能なことである。

それと、禁止されるのは「物質」だけでなく、血液ドーピングや尿などの検体をすりかえたりする(カテーテルを用いた方法などの例があるとのこと)「方法」も対象となります。

検査があれば、その網をどうやってかいくぐるか工夫するのが人間の常で、ドーピングがばれないように知恵をしぼる人間がいれば(90年代には、禁止物質摂取の証拠の検出を防ぐ「遮蔽剤」が開発され、アンチ・ドーピングの側はその対策に頭を悩ませたとのこと、まさにいたちごっこ)、それへの対処も必要となり、それやこれやでドーピングの定義、防止対策もある程度複雑なものとならざるを得ないのでしょう。

※専門家でもないのに必要な知識をすべて頭に入れることは無理。とすると、アンチ・ドーピングの観点から個々の薬品、サプリメントの摂取に問題はないかなど、簡単に相談、チェックできる体制を構築する必要がある。→「薬剤師」の資格を持ったスポーツファーマシスト

ドーピングの定義

ドーピングの定義については、配布資料をしっかり読んでほしいところですが、その大要を私なりにまとめると、

1.禁止物質の摂取あるいは摂取を証明する証拠が検出されること(禁止物質それ自体ないし禁止物質を摂取した場合に体内に生成される物質が選手の尿・血液等から検出されること)
2.検査(ドーピング・コントロール)のサボタージュ、非協力
3.禁止物質の所持、入手の試み
4.組織的なドーピングの実行・隠ぺい工作

といったことがドーピングに含まれます。処罰を伴う事項であることから、定義は厳密になっていますが、実行に加えて「企て」も処罰の対象に含まれており、疑われるようなことをしないのが基本ということでしょう。

ドーピングが処罰される理由

ドーピングが処罰される理由としては、競技者の健康被害が第一に挙げられます。

※勝ちたい、より良い結果を出したいというのは競技者にとって当然の願望ですが、そのために競技者の健康、生命に危害を及ぼす物質の摂取を許してはならない、そうした物質摂取を防止することがアンチ・ドーピングの中心的な課題といえる。

第二に不誠実(アンフェア)ということ。ごくわずかな差が勝敗を決めるのは競技の常。そうした僅差のせめぎあいで、薬を飲んだか飲まないかによって勝負が決まるというのはアンフェアであり、許してはならない。

第三に社会悪。青少年の役割モデル(模範)たるべきアスリートが競技に勝つという目的のために自らの健康を損ね、不誠実な行動をとることは社会に悪い影響を与えます。

第四に、スポーツの価値とは、Play True(真の、あるべき競技)とそれを実現するための倫理・誠実・卓越・チームワーク・ルールの尊重・自分自身そして参加者の尊重といった諸要素からなるスポーツの精神にあり、ドーピングはそうしたスポーツの精神、価値を否定するものにほかなりません。ドーピングとは、フェアで卓越した競技の実現を妨げる行為であり、その放置は競技自身の価値をおとしめ、ひいてはスポーツ全体を滅ぼすことにつながってしまいます。

空道連盟にアンチ・ドーピング活動は必要か 「うっかりドーピング」

とすれば、総合武道、社会体育としての空道を追求するわれわれにとって、ドーピングなどという行為は無縁のものではないか、かりにも武道家を名乗る以上、ドーピングといったアンフェアな行為に手を染めるといったことはありえないのであって、ことさらにドーピング対策をする必要などないのではないかと考えたいですし、主観的には私もそうした考えに共感します。アンチ・ドーピングの網をくぐり抜け、成績の向上を目指す、確信犯的なドーピングが摘発されるのは当然であり、そうした不心得者(古い表現ですが)とわれわれは関係ないと思いたいところです。

しかし、実際にドーピング検査が実施された場合、「うっかりドーピング」という問題を無視することはできません。ドーピングをするつもりがないにもかかわらず、知識の不足から自分が知らないうちに禁止物質を摂取してしまい、検査に引っかかってしまうという「うっかりドーピング」という事例が少なからず発生しているとのこと。ドーピングをするつもりがないのに処罰の対象とされるというのはまさしく悲劇です。試合に向けた努力はいったいなんだったのか。アンチ・ドーピングの活動は、ドーピングによる健康被害からだけでなく、知識の不足から生じる「うっかりドーピング」から選手を守るものでなければなりません。アンチ・ドーピングについて十分に学び、ドーピング・ゼロを目指すことが、選手を守り、ひいては大道塾の名誉を守ることにつながるのです。

アンチ・ドーピングは自分に関係ないのか 「競技会外検査」

「ドーピング検査というものは大会上位に進出する有力選手だけの問題であって、一般の選手・塾生には関係ない」と思っている塾生はいないでしょうか。私もセミナーに出席する前は有力選手だけの問題と思っていたのですが、これは違います。有力選手の周辺で疑わしい行為をすることもチェック対象となる可能性があるという意味で選手以外の関係者もアンチ・ドーピングのチェック対象になり得ますが、それとは別に、「競技会外検査」という項目があり、それはほとんどの塾生が(理論上は)対象となり得るものです。現在では、試合当日もしくはその前後に競技会場で実施される「競技会検査」以上に、(巧妙化するドーピングへの対策ということでしょう)日常の、試合シーズン外のトレーニングにおいてドーピングの有無をチェックする「競技会外検査」が重要となっています。

これは、理論上、競技に参加する可能性のある人すべてが対象になり得る検査です。もちろん、参加可能性がある人すべてを検査するというのは物理的にも費用的にも不可能ですから、実際には「検査対象者登録リスト」を作成、その中から実際の対象者を選択、通告のうえ検査員同伴で検体(尿・血液)を採取するということになります。採取の日時があらかじめ分かっていれば、(遮蔽薬などを用いた)隠ぺい工作が可能となるので、リストに記載された対象者は3カ月ごとに自分の生活予定(いつ、どこにいるか)を書いた「居場所情報」を提出、それに基づいて検査員がある日ある時突然に訪問、検体採取を行うという流れのようです。

予定は未定で社会人であればなおさら予定通りに仕事が進むことなどありえない、それでも予定を守れとはアンチ・ドーピングも無理なことを求めるなあ、と思った人もいるでしょうが、さすがに一回チェックできなかったからといって処罰の対象になることはありません。しかし、三回チェックできないと続くと処罰の対象になります。ドーピング検査、特に「競技会外検査」については広く塾生一人一人が基礎的な知識を得る必要があります。

ここまで読んでもらってご苦労様です。私は、予備知識を得ようと『JPN ドーピング・データベース 第2班』を取り寄せ、広げた瞬間に「こりゃダメだ」という、何がダメかわからないくらいの感想を持ちました。禁止物質全部は頭に入りません。

しかし、ドーピングの知識を網羅的に身につけることは無理でも、

風邪、喘息、花粉症の治療薬が「うっかりドーピング」で引っかかりやすい。
パフォーマンス向上のためのプロテイン、サプリメントについては、基本、原材料・成分が明記されている国内のメジャーなメーカーのものを使用すべき。海外のサプリメントについては、そのおよそ15%程度が禁止物質を含んでいるといった報告がある。海外の得体のしれないメーカーのサプリメントをネット上で購入し、使用することは健康を考えても慎むべき。
利用しているサプリメントについては、自分なりに調べる(※メーカーに問い合せることも一つの手段かもしれない)。また「日本薬剤師会ドーピングホットライン」・「空道連盟専任ファーマシスト」(今後の課題)といった専門機関・専門家に問い合わせる。
疾病・外傷で通院している場合、治療薬に禁止物質が含まれている可能性がある。病院から薬をもらっている場合は、禁止物質の有無を確認する必要がある。治療に必要であれば、たとえ禁止物質が入っていても、しかるべき手続きを取ればその使用が認められる。(TUE Therapetuic Use Exemption 治療使用特例。使用のための特別許可証)
通常の食生活を営む限り(もちろん、グローバル化した近年の食材事情を神経質に考えれば、どこでどうやって作られ、どのような物質が混入されているかわからない、といった疑いは尽きないが)、食事からドーピングの問題が発生することはおよそ考えられない(健康な食生活を心掛けることは当然として)。

といったことを踏まえるだけで、空道連盟においてドーピング・ゼロ(一人も引っかからない)を達成することは十分可能と思います。わが国においては、世界に先駆けて、専門知識に基づき、アンチ・ドーピングのための指導、啓発活動にあたる「公認スポーツファーマシスト」(薬剤師)が制度化されています。大道塾におけるドーピング・ゼロを実現するために、そうした専門家の協力を得ながら、選手、指導者に対する(アンチ・ドーピングの)支援体制を構築することが今後の課題であると痛感しております。

以上、渡部先生のご講演を踏まえ、私なりに理解したことをまとめました。思わぬ誤解、間違いがあることを恐れます。(私なりの理解という意味で、文責はすべて私にあります。)今後も、空道連盟(大道塾)の一員として、アンチ・ドーピングに関する知識を深め、空道連盟(大道塾)におけるアンチ・ドーピング体制の構築に微力を尽くしたいと思います。

渡部先生にはご多用の中、非常に参考となる講演をしていただき、ありがとうございました。自分の理解の至らなさを恐れるばかりです。その意味で繰り返しになりますが、この文章について、間違い等の責任はすべて私にあります。

それと、この度は、西日本地区サマーキャンプへの「乱入」を許容していただき、ありがとうございました。大変に楽しかったです。文頭にも書きましたが、他地区サマーキャンプへの参加もありだなと思っています。今後も、事情が許せばまた参加させていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。

以上。

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