審判団レポートの中の渡辺慎二

第一回空道W杯ロシアモスクワ遠征記

4年ぶり、三度目のロシアモスクワにW杯の審判として行ってまいりました。今回W杯の会場となったのはスポーツ複合施設である「オリンピスキー」の体育館

今回W杯の会場となったのはスポーツ複合施設である「オリンピスキー」の体育館。これはその名の通りにオリンピックの為に建てられた競技場であり、天井には五輪マークが誇らしげに輝いております。試合場は世界大会と同様の二面式(見栄えを良くする為のフェイクの試合場を入れると三面)。バックには巨大なオーロラビジョンを設置してファンサービスを実施。これはルール説明の画

街中に数多くある宣伝の効果もあってか観客の入りは満員御礼状態の約8000人。参加国数は、会場に飾られた国旗を私が数えたところによれば、ロシア、日本を含め31カ国。その外国勢30カ国を100名以上の宿泊先は五つ星ホテル。選手、コーチ、審判などには偽造が出来ぬようホログラムシール付きの専用のIDカードが配られ、その紐にいたってもW杯のロゴ入りと、まぁ何から何までお金の掛かった凄い規模のイベントでした。

これは道路上に掲げられた横断幕。看板も数多くありました。 観客の入りは満員御礼状態の約8000人 会場に飾られた国旗を私が数えたところによれば、ロシア、日本を含め31カ国

さて試合の方ですが、(ある意味予想されたことではありましたが)残念ながら7名の日本代表選手中、準決勝まで勝ちあがれたのは3名のみ。その3名も全てその準決勝でロシア選手相手に敗退という結果になりました。決勝は男子全階級がロシア勢同士のぶつかり合い。唯一女子の部でウクライナ選手が2位に入ったが1位はもちろんロシア。

この結果、空道の国別ランキングとしては、一位がダントツでロシア。二位が大きく水を開けられてウクライナ。三位がようやく日本。すぐ後ろにモンゴル、イタリア等、というのが現状です。 イタリアはヨーロッパ各国との交流試合を盛んに行っているそうで、レベルupが進んでいます。モンゴルにもかなり良い選手が数多くいました。彼らは日本人のような技術のしっかりした組手をやりながら、同時に日本人よりもフィジカルが強いので、二年後の第四回世界大会のときには、かなり注目の存在になりそうです。私は海外遠征にはいろいろと参加させてもらっていますが、そこでいつも感じるのは日本人の非力さです。もちろん「人種ごとの筋力差」など学者さん達は認めていませんが(※うっかりそんなことを言えば人種差別主義者だとレッテルを貼られてしまいます)、個人としては「日本人はおそらく世界で最も非力な民族ではないか?」というのが実感です。非力な同士で闘っている国内戦ならイザ知らず、海外勢との対戦を視野に入れるならフィジカルトレーニングを根本から考え直さない限りは、日本の二年後は世界No.1どころかアジアNo.1の座すら取れないかもしれません。

大会レベルとしても、ロシア選手が圧倒的に強い現状では「ロシア選手の参加人数の多少がその大会のレベルを決める」というのが実情ですので (1)ロシア大会、(2)W杯、(3)世界選手権 という格付け順になってしまっています。実際にW杯の前日にはロシア大会があり、三位決定戦以降を見学したのですが各クラスともレベルが高いです。トップ選手はW杯に出たので、ここに出た選手達はキツイ言葉で言えば「二線級」なのですが、しかし「今回の日本代表選手が出ても正直何人が勝てるのだろうか?」という感じです。昔柔道でオリンピック金メダリストの斉藤仁選手が全日本大会で山下泰裕選手に勝てず、「富士山はエベレストよりも高い」との名言が出ましたが、その伝で言えば、空道の世界では「ロシアは全世界よりも広い」という状況になっています。大変に悔しいことですが。ちなみに今回のロシア大会ではウラジオストック支部が大活躍。全7階級(=男子6階級、女子1階級)の内、優勝5つ。残る2つも準優勝だったそうです。昨年夏にコノネンコ師範と東北地区の黒帯有志がウラジオストックの夏合宿に参加させてもらっていましたが、現役選手たちがこのような機会を得られれば、かなりの刺激になるのではないかと思います。

さていろいろと厳しいこと書きましたが、それでも日本代表の各選手達はそれぞれ頑張ったと思います。ロシアと日本の差は選手個々の能力差、努力差ではなくて、サポート環境の差であると思います。現在のロシアの空道のトップ選手は、そのほとんどが企業アマだそうです。つまり会社に所属していても実質的に仕事は何もせずに空道の練習をしていれば良いそうです。例えば−230クラスで世界大会二連覇中、今回も優勝したコリャンエドガーなどは、彼が希望すればどこの企業でもセキュリティ部門の責任者として役員待遇で三顧の礼をもって迎えられるだろうとの事。本当にうらやましい限りです。日本でも空道をすることが自分の人生の将来設計にも繋がる(=よりはっきり言えば「空道で飯が食える」)環境が整うようになれば、選手個々人も更に頑張ろうという気になるでしょうし、選手層も厚くなるでしょう。しかしそれはどう考えても今日明日の話にはなりません。「日暮れて、道なお遠し」といった状況です。

今我々がやらなければならないことは、環境が整うまで、仮にレベルupが無理だとしても少しでも力を維持し、残していくことだと思います。日本の総力を結集して。 選手は世界で勝てるように、今以上に、特にフィジカルトレーニングに励んでください。私達支部長はその選手達のサポートと空道普及(塾生数up)に頑張ります。そして一般の塾生の方たちは、空道の稽古を通じてより充実した人生を送れるよう、更に頑張ってください。これ、とても重要です。何しろ(当たり前のことですが)支部長や選手を足した数よりも、一般の塾生たちの数の方が圧倒的に多いのですから。選手でもない、あるいは黒帯ですらないかもしれない一般の塾生の方たち一人ひとりが空道を通じて幸せに生きる、それこそが空道の価値、素晴らしさを他者に伝え、社会に伝えるための最も素晴らしいロールモデルになり得るのです。

「武士道」という名のインスタントコーヒーが売られていました少し余談になりますが、お土産を探しにホテル近所のスーパーに入ったところ、そこに「武士道」という名のインスタントコーヒーが売られていました。しかもスイスのメーカーです。ちょっと笑ってしまいましたが、「武道、武士道といったものは世界が認める、世界に誇るべき日本の文化なのだなぁ」と、また改めて実感しました。 そして空道は紛れもなくその日本の誇る文化の一つなのであり、大道塾の塾生一人ひとりは皆その文化の担い手であります。取り巻く環境、状況は決して明るいとはいえませんが、誇り高き戦士の民族=サムライの子孫として、また世界に誇れる文化の担い手として、誇りを胸に、この空道をより良い形で後世に伝えていけるよう私達皆で頑張りましょう。

渡辺慎二(浦和・北本・大宮西支部)※画像・コメント

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