この連載は『月刊空手道』(福昌堂発行)1985年10月号に収録されたものです。肩書は掲載当時のものです
第六章トリック攻撃
今月と来月の二回はトリック攻撃につけようとした場合、その対応が大変であいて述べてみよう。
トリックとは一言で説明すれば陽動作戦である。すなわちトリックによる一撃目に相手の注意をひきつけて、それに対する受け、捌き、ステップなどをさせておいて、それとは全く別の攻撃によって無防備のところへ打ち込むという戦法である。
受けというものは多く条件反射によって身につくものであり、何度も約束組手やスパーリングによって体で覚えて初めて使えるものであるから、いったん一撃目の攻撃に対する防御の態勢をとってはぐらかされてしまうと、次の二撃目に対しては対応が遅くなってしまう。
一撃目から、フェイントではなく確実に相手に当てようとしてパンチを出し、それを二撃、三撃と続けるオーソドックスな連打攻撃の一つをとってさえも、受けようとした場合、その対応が大変であるのに、ましてやトリックは一撃目の途中から二撃、三撃を出してくるのである。稽古で実際に、それも何度か体験してないと大概の人間はトリックを読むことはできない。結局、一度や二度トリック攻撃をもらったからといって次に警戒していてもなかなか対応しにくいのである。また、このようなトリックによる予想外の技をもらってしまうと焦ってしまい、ペースを乱してしまうことが応々にしてある。
したがってトリック攻撃は、回転打ちや前蹴りから回し蹴りへの変化技と同様、慣れていない人間には多分に効果的なものである。これでダウンさせるといったほど強力なものにはならないにしろ、相手の心理を攪乱し試合のペースを自分のものにするという意味では重要な攻撃法なのである。