空道 選手列伝 > 第4回

第4回「前原映子」

――空道は警察官の実務に役立ちますか?「凄く役立っていると思います」

空道ニッポン、女子のエース的存在である前原映子。軽快にフットワークを取り、サウスポースタイルから上・中・下段に打撃を散らし、組んではヒザ・頭突き・投げ・関節技を連繋する、その巧みな組手で、2006年から6度に渡り全日本を制してきた。今回の世界選手権を最後に、競技生活に一区切りをつけるという彼女の背景にあるものは・・・・・・。 

700ccの大型バイクを乗りこなす
700ccの大型バイクを乗りこなす

――空道を始めたのは何歳のとき、どういった理由で?

前原22歳のときです。2003年頃、高校を卒業して社会人をしていて、新しい趣味をはじめたいな、なにか格闘技をしたいな、という理由で。

――どんなお仕事をされていたんですか?

前原実家の自営業、現場作業員の手伝いをしていました。

――どんな実務内容なんですか?

前原一般家庭の駐車場スペースに生コンを打ったりとか、境界線のところにブロック塀を立てたりだとか。

――じゃあ、けっこう力仕事ですね! ヘルメットを被って?

前原そうですね(笑)。

――柔道参段を取得されていますが、学生時代に柔道をされていて、卒業後に空道を始められたということですか?

前原いいえ。空道をはじめてから、投げを磨くために、柔道にも取り組み始めました。

――そうなんですか! それまで武道経験はなかったのですね。

前原小学・中学校時代はソフトボールをやっていて、高校ではなにもやってなくて、高校を卒業してからは乗馬をしていました。

――乗馬とは、また、カッコいいですね。

前原もともと動物好きで、家の近所に乗馬クラブがあったので、そこでアルバイトをしながら馬に乗っていました。

――しかし、それが、また、なぜ武道の世界へ?

前原小さい頃から格闘技に対して「やってみたい」っていう気持ちはあって、打撃も組み技もあるのが一番いいかなと思って、空道を選びました。

――さらに、お仕事の方も、今は警察官をされているんですよね?

前原 警察官も小さい頃から憧れていて、採用試験の年齢制限ぎりぎりに近い28歳のときに受験しました。

――で、警察官になられて、空道は警察官としての実務に役立ちますか?

前原やはり空道は打撃からはじまる武道競技なので、酔っ払いが手を振り払ってきたときに反応出来たりだとか。一方で組み技もある競技だから、相手が向かってきたときに、うまく崩して抑えられたりだとか。凄く役立っていると思います。

――単に理論上のことでなく、すでに実際にそういう経験をされていらっしゃる?

前原ええ。

――具体的にはどのような状況で?

前原交番勤務をしていましたので。20名くらいの若者の酔っ払いグループのケンカがはじまっていて、そのとき、交番には私も含めて3名しかいなくて、応援が到着するまでの間、そういった集団のケンカのなかで、より興奮している者を抑えたり・・・というようなことはありました。

――やはり、そういう場面にはよく遭遇する?

前原ありますね。

――警棒とか拳銃も所持されているんですよね?

前原該当の活動をする場合はそうですね。

――そういった武器があっても、やはり、よほどの状況でないかぎり、徒手で制圧することが必要だし、殴ったりして相手を傷つけてはいけないわけですよね?

前原もちろんそうですね。

――そういったなかで、空道は役に立っているのですね。

前原そうです。

――以前、留置所管理の仕事をされていると、大道塾HPの記事で拝見したことがありますが、現在もその職務を?

前原この春から警察学校に異動になりまして。

――では、これから警官になろうという女性の指導を?

前原いえ、男女ですね。

――よく映画とかでみる鬼教官″みたいな?

前原教えている科目は柔道なので(笑・「そんなことはない」というニュアンス)。

――大会に向けての稽古はどのように?

前原今は、授業が終わった後の課外の時間″で柔道をすることも出来るし、筋力トレーニングも警察学校で出来ている環境です。仕事が終わってから、大宮西支部に通っています。

――サウスポースタイルの特性を活かした足運びや技の選択が巧みだなぁとお見受けしたのですが、ご自分で考えられたものですか?

前原相手に対する位置の取り方など、支部長(渡辺慎二支部長)にご指導いただいたものです。

――前回の世界選手権(優勝したラジィオノワ・ルドゥミラに準決勝で判定負け)を振り返ると?

前原悔しいという思いだけが残った大会でした。

――前々回世界選手権優勝のイリーナ・ビコワが桁外れのパワーファイターで、前回世界選手権でも優勝候補筆頭だったのですが、そのビコワが大会直前のケガで欠場。これは日本勢が優勝できるかな? と思ったら、日本人選手の誰よりも体格の小さい(身長145センチ)のルドゥミラの猛ラッシュが世界を制しました。

前原プレッシャーに負けたというのが一番かと思います。もちろんの相手の打撃の回転は速かったんですけど、ビコアより強かったかといえば、絶対にそんなことはなかったはずですから。固さがでてしまって・・・。

――自分自身に問題があった、と。

前原ええ。

――今回は同じ過ちは繰り返すまい、と?

前原そうですね。自分自身の精神のコントロールをしっかりと。

――今回はそのビコアもやってきますし、もう一人の代表は、ビコア同様のパワーを有し、かつ柔道・サンボでも国際大会に出場しているレゼプキナ・アリナですからね。

前原隙を突いて打っていこうと考えていますが、カウンターを狙って待ちすぎて負けていることが多いので、その点は修正しなくてはいけません。

――その微妙な部分にかんして、精神のコントロールが必要なのですね。世界大会後で優勝して、その後は?

前原そうですね。競技としてはこの世界大会を区切りとして、後進の指導にあたりたいと考えています。

――春の全日本で初めて敗れた庄子選手との試合、もう一度みたいですし、U19クラスから一般に、来春クラス変更となる若手の前に立ちはだかって欲しいとも思いますが。

前原ありがとうございます。ただ、今、職務がある程度時間的にゆとりがある状況で、来年以降は確実に多忙になるんです。前回世界大会と比べて、よい環境にいて、一人ではできないトレーニング量をこなせているので、このチャンスを活かすしかないな、と。

――今回の世界選手権が、最高で最後のチャンスだ、と?

前原はい。

このページのトップへ

2014.11.11更新

本サイトに掲載の記事・写真等の無断転載を禁止します。
Copyright©大道塾