インド遠征記高橋英明(新宿支部)

全日本選手権大会が終わって1日置いた5月7日の早朝に我が家を出発し、16日の夕方に帰宅するまでの、9日と12時間の旅でした。 12日に塾長一行と別れるまでの間は、他の皆さんが詳しくレポートしてくださると思いますので、私は、翌13日からを中心にレポートします。

経緯

もしインド側が希望すれば、当初の予定から更に3日残って指導してあげてもいいよと伝え、その結果、15日の夜にムンバイを発つことになりました。

具体的にどの程度の指導をするかは、時間的なところはインド側の希望に応じて、また内容は8日からのセミナーでの彼らの動きを見てと考えていましたが、時間的な面は、12日のムンバイ道場の道場開きが終わった翌13日と14日に、それぞれ、10:00〜13:00と18:00〜21:00に、指導をしてくれということになりました。2日で合計12時間です。

12日の道場開きで塾長がテープカットをし、その翌日からの最初の4回の稽古を私が指導するということになったわけで、たいへん光栄なことでした。
私からのリクエストとして、個々人に対して直接の指導をしたいので、各回の参加人数は10名から最大でも20名までということを伝えました。
結果、25名が、4回の稽古に延べ72名、参加してくれました。
7日間の合宿が終わったばかりで、朝から2日間もよく参加してくれたと思います。

12日の19:30に塾長一行を見送ったあと、道場のある建物の4階にある宿泊施設に入りましたが、部屋はかなり広く、エアコンもよく効いて、快適でした。また2階の道場まではわずか1分です。外のホテルに泊まると移動だけで多くの時間をとられることになってしまうので、この点でも快適でした。写真は、部屋のベランダから見下ろした、スポーツコンプレックスの中のプール(50mプールと、飛び込みプール)です。毎日、気温がまだ上がらない早朝から、練習が始まっていました。左側の明るい場所は、イベント施設です。これらの先には、夜なので写真では見にくいですが、できて間もないメトロの高架駅が見えます。非常に便利な場所です。道場は、このスポーツコンプレックスの中のWomen’s Self Defence Center という建物の中にあります。

指導

新しい道場は、写真のように、マット(二重に敷いてある)が9×13枚。マットの回りにもスペースがあるので、総本部道場の3倍近い広さです。20名で移動稽古するにも、十分な広さです。

指導の内容は、12日までの間にいろいろと考えていたのですが、実際にやりながら変更し、最後の稽古の3時間は、それまでにやってきた中から、基本的なことを一通り繰り返して実施しました。その内容は次の通りです。

  • 基本稽古
  • 移動稽古
  • ディフェンスの練習
    • 対ジャブ
    • 対ストレート
    • 対フック
    • 対中段回し蹴り
    • 対下段回し蹴り
    • 対上段回し蹴り
    • 対中段前蹴り
    • 対後ろ蹴り
  • 打撃から投げの練習
    • 膝蹴りから支えつり込み足や体落としなど
    • 肘打ちから大外落としや体落としなど
    • 頭突きから一本背負いなど
  • 関節技の練習
    • 大外刈りから腕ひしぎ十字固め
    • 首投げから袈裟固め・膝固め
    • 大内刈りからアキレス腱固め
    • 大内刈りから膝十字固め
    • 腕がらみ3種
  • 絞め技の練習
    • 裸絞め
    • 送り襟絞め
    • 片羽絞め
    • 十字絞め
    • 三角絞め
  • グランドの基本
    • 空道寝技ポジションの上から複数種
    • ガードポジションの上から
    • ガードポジションの下から複数種
    • ニーインザベリーから

みっちり3時間指導した後の集合写真です。

初日の6時間と2日目の最初の3時間は、これらを時間をかけて丁寧に教えました。特に基本は、なぜ基本が大事なのかを繰り返し伝えましたし、稽古を始める際の礼の仕方や正面に礼をする意味なども伝えました。更に、①絞めの応用として、四つんばいになっている状態(タックルを潰されて、あるいは投げを潰されて)の相手に対する絞めのパターンを10種類、②打撃から掴み・投げ・極め・関節技の連続的な流れのパターンを約10種類、それに、③護身術を約10パターン(相手に前から手を掴んで引っ張られた場合、両手で襟を掴まれたり首を絞められたりした場合、後ろから羽交い絞めされた場合、ナイフを振り回された場合等々)を実施しました。

タックルの練習は省きましたが、私の膝の調子が良くなかったことによります。護身術を教えることは、当初は予定していませんでしたが、前述の通り、道場が入っている建物がWomen’s Self Defence Center となっていたことから、付け加えたものです。インドは犯罪が多く、護身が重視されているとのことでした。 またスパーリングも行いませんでしたが、基本的な動作や技の理解が不十分な状態でスパーリングを実施することは、かえって悪い癖を助長することになると考えたことによります。
11月に、審判の講習も含めてまた来て欲しいと言われたので、スパーリングはその時に楽しみたいと思います。

食事

朝食は、あまりお腹がすいていないので、部屋に箱で差し入れてくれていたマンゴーを食べるだけ(といっても、毎日5〜6個食べました)。13:00までの稽古が終わったら、びしょびしょになっている稽古着を水洗いし(18:00からの稽古までには乾く)、スポーツコンプレックスを出てすぐのところにあるインド料理店で昼食、夜の稽古の後もまた稽古着を洗い、同じところで夕食。 二日目も夜の稽古までは同じパターン。別のレストランに行くかと聞かれても、暑い中を歩くのがめんどくさいので、同じ近いところで食べていました。夕食は、海辺に行ってバーベキューをやるというので、てっきり砂浜に出てやるのかと思ったら、外ではビールが飲めないので、車にビールと氷の入ったクーラーを積み、海の方向にドライブして、途中のお店でシシカバブーをテイクアウトし、車の中で食べて飲むという、思ってもいなかったパターンでした。

ただ、その後は、日本にあるのと変わらない、きれいなアイスクリームのお店で、勧められるままに、マンゴー・パフェ、パパイヤ・アイスクリーム、マンゴー・シェイク、ライチ・アイスクリーム、それにKala Jamunという現地の果物のアイスクリームを立て続けに食べました。 食事は、インドに行ったら全てインド料理でOKですが、水だけは気をつけました。部屋に大量のミネラルウォーターを持ってきてくれるので、1日に7〜8リットルを消費していました。飲む他、歯ブラシを洗うのもミネラルウォーター、シャワーを浴びたあとでミネラルウォーターで体を洗い流すといった使い方をしていました。道場は暑いので、大量に水を飲みますが、みんな汗で出てしまってトイレにはあまり行く必要なしという、これも思ってもいなかった状況でした。

最終日

帰国日の15日は、ムンバイ発22:30のフライトなので、朝の8:30に出発して船で隣の島に渡り、Elephanta Caves という世界遺産の洞窟を見学しました。仏教彫刻の前の古代インドの彫刻は、好きです。ギリシャ彫刻や古代ローマの彫刻などとは明らかに違った特徴があります。ただ、多くの彫刻がタリバンによって一部破壊されており、残念なことです。 観光地で大勢の人がいるにもかかわらず、日本人はおろか、中国人や韓国人の姿もなく、わずかに欧米人を数名見かけただけという、初めての体験でした。

指導のために来ているので、基本的には観光はしなくてよいのですが、おもてなしの気持を受けるということで、行かせてもらいました。また、観光に行かずにもう1回稽古というのは、お互いにきつかったと思います。

最後に

11月にまた来て欲しいというリクエストを受けましたが、「その時までに変わるから、変わった姿を見て欲しい」と口々に言われました。「これは駄目だ、これを変えろ」と口うるさく言ったことに対する反応です。こちらとしては「それができないようだったら、もう来ないよ」ということですが、真剣に応えてくれるだろうと思います。

準備体操と基本稽古・移動稽古も、最後の方はインドの塾生に号令をかけさせ、日本と同じ進め方ができるようにしました。また道場訓も、日本語の発声を録音し、今後はインドでも日本語で、日本と同じようにできるようにしました。世界の空道を共通にすることが重要だと思っています。

最後の稽古のあと、4人ほどいた子供たちが寄ってきて、ひれ伏し、足先に触って行きました。神様になった気分です。膝を悪くしている大人も一人だけ、同じ動作をしていきました。私の足に触っても、膝への御利益はないと思うのですが(両膝とも、軟骨がかなりすり減っている状態です)。その後は例によって、しばらくの間、写真撮影が続きました。
世界遺産の見学から戻ったときには、何名かが見送りに来ており、「師範に似合うと思う」という、自分ではまず買わないだろうなと思う色のシャツを3枚、お土産にもらいました。女房に見せたら、女房が好きな色のセットだということでしたので、今後インドに行くときに着ていきたいと思います。また銀行に勤めている塾生は、私の生年月日の番号のお札(ガンジーの絵が入ったもの)を探してきて、プレゼントしてくれました。最後は、空港まで4名が送ってきてくれ、万歳して見送ってくれました。

これまでの32年間の企業人としての生活の中で、安全問題やリスク・マネジメント分野の専門家としてお客さんたちからのリスペクトや、経営者や指導者として部下からのリスペクトは、普通の人よりは受けてきたほうだと自負していますが、空道を通して、世界中のより多くの人たちから大きなリスペクトを受けることができることを、改めて実感しました。
空道と、空道を創られた塾長に、改めて感謝です。
あとどれくらいの間、体を動かせるかわかりませんが、体が動くうちは、空道の面白さを世界に伝えたいと思っています。インドにいる間に、昨年8月にドイツのミュンヘンで指導した者から、6月に2週間の休みが取れたので、フライトと総本部近くのホテルを予約したとの、興奮した様子のメールが入りました。ミュンヘンでは3名に10時間ほど指導しましたが、3名とも、日本に来て練習したいと言ってくれており、連絡をとりあっています。ミュンヘンで、空道の面白さを伝えることができた結果だと思います。これも、遠征期間にあった、うれしいことでした。

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2015.5.23更新

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