この連載は『月刊空手道』(福昌堂発行)1985年12月号に収録されたものです。肩書は掲載当時のものです
だいたいの選手は、その組手スタイルを見れば誰に指導されたか、どこの流派であるかわかるものである。しかし大道塾の選手はみな一様に組手スタイルが異なる。そこでよく「いったいどれが大道塾のスタイルなんだ(?)」という問いかけをされることがある。「大道塾には決ったスタイルなどはない」こう答えると、当然のようにみな不思議そうな顔をする。そして、「大道塾では何を教えているのだろう」とか、はては「新しいことを模索しているのでまだ確定的なスタイルが完成されていないのだろう」などと、さまざまな反応が返ってくる。
そこで今回は「空手の指導」ということについて考えてみようと思う。
私は「空手を指導する」ということは相手の能力をいかに引き出すかということで、手とり足とり教えて自分と同じ型にはめ込むことではないと思っている。
「空手は芸事である」などというと怒る人が多いと思うが、空手が技術、精神、そして肉体から成り立っていることを考えれば、総合的技術の修得という点では他の芸事となんら変らないはずである。芸事の修得における段階を俗に守・破・離〟という表現で説明しているが、私ももっともだと思う。
まず基本的な技術や稽古法はきちんと教えなければならない。現在、空手の技術は試合ルールに添って組み立てられているため、各団体によって体系が異なる。例えば格闘ルールを採る大道塾では、具体的にはランニングとウェイトトレーニングは必須である。また、立ち方は相手に対して肩幅で正方形をつくり、その対角線に立つとか、構え方は両アゴをはさむようにして拳をあげる、パンチはストレートがこうでフックはこう、蹴りは前蹴りはこうで回し蹴りはこう…などなどは基本であるし、当然口うるさく教えなければならない
ランニングをしない、ウェイトが嫌いでは話にならないし、顔面パンチを含む連打がくるというのに前屈立ちだ、拳を脇に引けではどんな理屈を並べても現実的ではない。また基本の技を覚えたからといって初歩的な約束組手も教えないですぐに組手だ、では体がいくつあっても間に合わない。
空手が格闘技であるといった基本理念から生じてくるこのような練習体系はいわば前述の言葉を借りれば〝守”の部分にあたり、当然守らなければならない原則である。これは空手の練習体系の6~7割を占める部分である。この基本を単に知識としてではなく、体で覚える(体得する)のには約2~3年かかるはずである。
そして、残りの部分が、いつまでも「教える」「教えられる」では解決できない部分である。すなわち”破”と”離〟の段階である。
人を自分と同じようなタイプに育てることを好む人がいる。そうでなくとも指導する側の人間には無意識のうちに自分を、例えばX軸とY軸の原点(0、0)において物を見る習性があるので、(-1、5)とか(5、-3)という点に位置する人間をどうしても自分と同じ点にもってこさせようという意識が働く
実際、そのような指導法は楽しいし、楽なものである。なにせ自分はこういう方法で強くなったのだから、お前もこうやれ、と自信を持っていえるし、そういうふうにして育てた弟子が自分と同じきをすればうれしい気は当然する。また他人もそれをいう、「いやー、先生とそっくりですね」と。
しかしである。自分とまったく同じタイプの人間を指導するのならそれもいいだろうが、タイプの違う人間を無理に自分にあわせようとすれば、それはいわゆる角を集めて牛を殺す式の育て方をしていることになるのである。
以前、「空手を始める人間では、どんな人間が最後まで残りますか?」という問に対し、即座に「それは指導する人間と同じタイプの人間です」とある人が答えたのを聞いたことがあるが、この話はそのへんの事情を如実に物語っている。
修得の段階でいう”守”の時期が過ぎたなら、その基本を自分なりに消化し、変化、発展させる段階が“破”になる。
自分の身長、体重、性格を自分なりに分析し、工夫、研究する時期がこれにあたる。
それら、試行錯誤の段階を経て初めて、自分独得の、個性的な闘い方、組手法が生まれてくる。すなわち”離〟の段階である。ボクシングを例にとれば、アリの軽快かつコンビネーションのスタイルとフレージャーのハードパンチスタイルはまったく違う。同じように空手も、回し蹴り一つとってもパンチの連打から上段を狙うタイプと、中段を蹴ってスタミナの消耗を狙うタイプは異なる。下段をひたすら蹴って足をつぶすという闘い方も、ある。さらにいえば、やれインファイトだ、ヒットアンドアウェーだという戦法もある。このようにして各自、みな自分なりの空手を完成させていく。この”離”をもって初めて、その人間が強くなれる段階に入るのである。
今回は、私なりの指導法を守・破離〟の原則に沿って簡単にまとめてみた。次回は、さらにこの話を進めてみようと思う