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東孝「度々の余震について」

違う時代になったのだ

NPO国際空道連盟・(社)全日本空道連盟 理事長
総合徒手武道 大道塾 代表師範・塾長   東 孝

昨夜4月7日11:32頃にも宮城県沖でマグニチュード7・4の地震があり、宮城県を中心に最大震度5強の揺れがあった。関東でも震度は3だったが、これを書いている8日もまた微震が断続的に続いている。

特に3・11で地震・津波・火事と甚大な被害が連鎖した宮城県での、昨夜の余震(あれで余震とは!)の影響は深刻で、仙台市中心街にある「東北本部」も前回の亀裂が更に広がり、再開したばかりの稽古は再度、様子を見るようになった。また、支部でも「ようやく前回のダメージから回復しつつあるのに」という悲痛な声が上がっている。

一度や二度なら立ち直ろうとしてもこうも度々続くと、次第、次第に人々は悲観的になり、冗談半分で言っていた「日本列島沈没(※1)」や「デイ・アフター・トゥモロー(※2)」等々の自然災害映画(ディザスタームービー)に影響され「日本は大丈夫か?」、「一体、日本はどうなるんだ?」といった社会不安が増大し、何とも言えない重苦しい不気味な空気が日本列島を覆い始めているような気がする。

※1 日本沈没 - Wikipedia

※2 デイ・アフター・トゥモロー - Wikipedia

恐怖心を煽る気は決してないが、東北のみならず、関東でも(というか以前はこちらの方が現実性が強かったのだが)この10年ほど前から「最も起きる可能性が高い」と言われて来た「仮称(第2)関東震災」を予想してしまうし、現実問題として更に追い打ちを掛けている「福島原発問題」を連日テレビで見ていると、確かに、日本は大変な時代に突入しているのだと思う。

20数年前のバブルが弾けるまでの「黄金の日々」は過去になったとはいえ、経済退潮からGDPが世界第三位と後退したことを肝に銘じ「日本再生」に向けて徐々に景気が回復基調になり始めた矢先のこのダメージは大きい。今までのような平和で安穏とした時代は確実に終わり、一日一日を何が起きても対応できるような緊張感やそれに立ち向かう覚悟を持ち、腹を据えて生きて行かざるを得ない時代になったのだと思う。

しかし「世界で64位の国土面積しかない極東の小国日本が、GDP(※3)世界第3位という経済を保ってきたのは、逆に今までが良過ぎたんだ」と考えたり、GDPそのものの見方を変えたなら、何ら恐れることはないんだ。

※3
GDPとは:国内総生産 - Wikipedia
「経済大国3位転落気にするな」:MSN産経ニュース「【正論】年頭にあたり 評論家・西尾幹二 中国恐怖症が日本の元気を奪う

よく「GDPはその国の経済規模を表すが、GDPの大きなことが必ずしも幸せとはいえない」と言われる。一方、GNI係数(※4)というのがあって国民の所得格差の度合いを測る指標である。最近「日本も経済的格差が大きくなってきた」と言われるが、これでは日本は世界123国中、2番目に格差が少ない(=公平な)社会ということになり、GDPで1位や2位の国の順位(※5)を見てみると、どちらが幸せかを考える一つの指標になるだろう。GDPが高いことを(新興国みたいに)過剰に誇示したり、逆に低いことを嫌悪したり、悲観したりすることはないのだ。

※4 GNI係数:参考サイト「世界各国をジニ係数順に並べてみた
※5 格差順で49位と35位とは、下から読めば公平性は74位と88位!

はたまた、経済的な比較を離れて、全く別な角度で考えれば、我々が常日頃塾生に説いている、バブル期から今日までは、「時代錯誤だ」とか「もうそういう時代じゃないよ」と馬鹿にされがちで、口に出すのも憚られるようだった、本来の日本人が持っていた「“忍耐”とか“質実剛健” 、“努力”、“平常心”と言ったものが大事な時代になった」という事でもある。大分“ヤワ”になったとはいえ、まだ我々にもそういうDNAは残っているはずで、慣れるのにそう時間は掛からないだろうから、そう悲観することないはずだ。

これは個人的な感慨かもしれないが、私はもうすぐ62歳になる。普通の職業(?)に付いて社長か重役になっていたと仮定すれば(希望的仮定だが笑)、かなり前(50歳台?)から、仕事をする場合でも、後進を指導する場合でも、それなりの格好をして、それなりの椅子に座って、悠々とそれまでの経験を語り説き、指示をすることが多い日々になっていただろう。

しかし“宗家”だの“創設者”だのと偉そうにせざるを得ない場合があるにせよ、私が道場で後進や弟子の前に立つ時は殆ど、ルーツは車夫の仕事着だとされる、道着一枚の姿である。どんなに暖房が利いている部屋で仕事をしていても、どんな豪華なパーティに出席し、それなりに隆とした身なりで優雅に(?)、偉い政治家先生や超一流会社の社長とグラスと傾けていても、道場に出る時は道着姿であり、やる事は、外見を見れば、入門当時と同じく「息を切らしながら体を動かすこと」である。

その度に「俺の本籍(?)は、ここにあるんだ。増長するんじゃないぞ」と自分に言い聞かせて来た。と言うと戦後一貫してアメリカ流の「“暖衣飽食(簡単に言えば“贅沢”※6)”が出来るようになる事が人生の成功」、という風潮の中で育ってきた今の若い連中には「何十年もやってるのに楽にならない事を良く続けているなー??」と思う人がいるかもしれない。しかしそういう哲学(?)というか空気の中で育ってきた人達は果たして幸せなのか?と問えば、一つの物差しが幸せ=健康だと思うが、甚だ疑問が残るはずだ(※7)それは体を動かす楽しさ(その後の食事や飲食は正に細胞で味わう感じだ)や充実感(人との繋がりや仕事への意欲が湧く等)を知らない人間の一面的な感慨でしかない。

※6 暖衣飽食(だんいほうしょく) 暖衣飽食の意味 - 四字熟語辞典 - goo辞書

※7 アメリカの肥満率:参考サイト 三大肥満大国はアメリカ・メキシコ・イギリス
肥満に伴う合併症:病気の症状辞典 肥満に伴う合併症

そう考えれば、武道をする者たちは“質実剛健”の専門家(笑)みたいなもので、健康という意味では運動をしない人間より十分に健康だとおもうし、世の中が多少不景気になったからと言って今までもそう贅沢をして来たわけじゃないから、今までと何ら変わる所がない。何も恐れる事はないのだ。不遜で言うのでは決してないが、試合場での勝敗を至高の価値とする“格闘技”ではなく、“常在戦場(※8)”を前提とする武道の徳目が見直される時代が来たのだ!「俺たちが元気を示さなければいけない時代なんだ」くらいの気持ちで、これからも同じように地に足を付けて歩み続けようではないか!!

※8 常在戦場: 常在戦場 とは - コトバンク

文書日付 2011.4.8

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