10春 西日本大会観戦記

東孝塾長「世界大会」などという大きな大会の次の年の体力別(春)は、それまで各階級を引っ張って来た何人かのベテランが引退して、急激な若返りがあるためか、通常、レベル的には低調な事が多い。しかし、前日の九洲予選も若手の台頭、ベテランの頑張りが噛み合い良い試合が多かった。

しかし西日本はどうかな?と思っていたが嬉しい事に同じように活気のある試合が多く、昨年の惨敗以来、彼我の差を様々な観点(選手自身の心構えや練習時間、国内での武道の位置やそれに伴う支援体制等々)から比較検討してみても、簡単には解決のつかない問題が多く、レコンキスタ(失地回復)は容易でないように思え正直、心重い日が続いていた。しかしこれらの大会の何試合かは、二重三重に重く立ち込めていた暗雲の中にかすかな雲間を見せてくれたような気がする。


-230級では若手の安井 彰伸(関西本部 以降、「関・本」)が、06年春予選以来、久々の予選出場となるベテラン古川 雄二(豊川同・責任者)と共に同じく2勝同士で準決勝対決。久し振りの戦いで疲れが見えた古川に積極的に攻め勝って判定で決勝に進んだ。一方のブロックからは、西日本地区で08年秋2位、09年春3位に入賞し全日本出場経験のあるベテラン伊藤 大介(安城同)が進出したが、同じく前へ前へという果敢な攻めを見せて見事1位に輝いた。

日本人の平均的な体格の為だろう、予選本大会通じて常に最も出場者が多く、レベルも高い-240のクラスは、今回も第1ブロックでは石黒 崇太(タカト 日進)が空道ルール2回目にも拘らずベテラン小瀬古 重樹(名張)を延長戦左スト「効果」で下した。第2ブロックではベテラン榎並 博幸(西尾同・責任者)が小気味よい動きを見せる若手の成長株、服部 篤人を破りこのニュ-フェイスと対戦。そこは07全日本準優勝、世界大会出場の実積に加えて昨年から同好会を立ち上げ先頭に体を動かして指導し、益々技に磨きを掛けている実力を発揮し本線で決着をつけ決勝へ。

第3ブロックからは昨年、最終決定戦で堀越に惜敗しもう一歩の所で世界大会出場を逃した柳川 慶夫(ヨシオ 岸和田)が、内弟子終了後針灸の専門学校へ通う為に中部地区に移ったその堀越亮佑(日進)と再び対決!堀越、バイトと学校、練習という、この三つ巴の生活のリズムがまだ上手くできてないのだろう、緒戦の西日本地区の上位進出常連、山下 裕治(名張)では相手のパンチが見えていず「効果」までは行かなかったが、度々押し込まれて本戦で1-2-2で薄氷の延長戦で勝利するなど今一波に乗れない。この本戦でも柳川の切れ味鋭いパンチの連打を度々貰いながらも辛うじて延長戦へ。本戦延長、本戦、本戦と合計4度目のラウンドとなるここで、やっと例のヒラリヒラリと上体を泳がせながらもパンチを出す戦法の感覚が戻り、何発かの的確なカウンターを当てて判定勝ちで決勝へ。

決勝では榎並がその堀越のヒラリヒラリを見極めて、左ジャブに合わせて的確で一撃一撃が重い右クロスカウンターを当てて行き、寝技でも終始攻勢で5−0の文句なし判定勝ちとなった。

堀越、これまでは山形支部(峰田国穂支部長)の元から内弟子として本部に入寮以来3年間、順調な成長をみせて、08体力別では全日本も制し、昨年は入門して合計5年という短期間で世界大会第4位という戦績を残せた。しかし、雑用はあるものの基本的には練習さえしていればよかった内弟子時代の恵まれた環境とは違い、通いの塾生が入門以来仕事や学校と練習との兼ね合いという悩みを抱えて“やり繰り”しながら強くなって来た事を思えば、寮生活3年間で選手としての土台はできているものの「(「人間として」という意味を含めて)真価はこれから試されるのだ」という自覚で精進して欲しいものだ。


-250級。人数は少なく五角形での戦いとなったが、西日本準優勝の経験のあるパワフルなファイター野田 洋一(関・本)や、トリッキーな戦いぶりで成長してきた大西 孝義(日進) 等、手強い相手が揃っている。やはり戦前の予想通り市川 忠樹(ただき 関・本)と大西との決勝対決となった。関西本部で早くから体幹の強さ、打撃センスの良さで期待されていた若手のホープ市川。今までは西日本地区には05世界大会3位、05全日本軽重量優勝の笹沢一有や、全日本出場の常連だったベテラン時任真樹と言った古豪がおり中々その壁を破れなかったが、ここに来てようやく頭角を現してきた。彼らが調整や仕事で出られない“留守”に勝ち癖を付けることは、実力を確かなものにするためにはまたとない機会だ。大いに飛躍して欲しいものだ。

一方の大西、ここ1,2年は専門学校の資格試験に重点を置いて練習して来たので、この所、一時の勢いはなかった(何度も言うが昨年の世界大会で惜敗した多くの日本代表同様「社会体育としての武道、の辛い所だ 泣)。しかし、今回は晴れて試験も終わり練習も十分していると見えて、例のトリッキーな動きで予想もできない角度から強いパンチを出して、実力者尾崎は本選で、強豪野田には延長まで粘られたが準決勝で市川と対戦。しかし昇り調子の市川、大西のトリッキーなパンチを冷静に見極め反撃を加え本戦で文句なしの勝ちを決めた。

成長する若手は若手同士の試合ではいかに鮮やかな勝ち方をしても、その正確な強さは測れない。それまで時代を引っ張って来たベテランと戦ってみて初めて、その実力がどの程度かが比較対照できるものだ。そういう意味で市川は次に相まみえる笹沢や時任との戦いでその成長した姿を見せて欲しいものだ。


最後の-260の部。7人エントリーしているが、270+の選手が一人いるので、世界大会の明確な選手選考のために2年間体力別のみをしてきた不安はあるが、ここに入れて見た。でないと良く他の大会ではあるが1人や2人で戦い○○級優勝等ということになってしまい、選手やその競技の成長という観点からも甚だ疑問のある表彰になってしまう。

という訳で、昨年までフランス支部で練習していた元バスケットボールの選手で、体格だけでなく、身体能力にも秀でている270+の加藤久輝(安城)を-270のクラスに入れたのだが・・・・。

案の定、結果は4戦全部1本勝ちという圧倒的な結果になってしまった!!第1戦の江本に左中段回し蹴りKO。第2戦が世界大会重量級代表選手で初戦を左回し蹴りで一本勝ちをしている山田壮(関・本)。山田、打撃戦では引けを取らないだろうが、体力差を考えて寝技に行く所、下になった山田が必死になって帯を持って堪える右腕を圧倒的な力で引き出し腕絡み一本!

第3試合の永島 逸郎戦では何と、サウスポーの加藤、前進してのワン・ツ−からの左回し蹴りを出すと、永島は勢いに呑まれて下りながら右の下段回し蹴りを返した所、着地して前体重になって余計安定感の増した加藤の膝下 (脛で最も硬い) に、脛の足首との中間(?)が当たったのだろう、何と脛が折れてしまった!!

これは一概に脛の硬さの差とだけは言えない。それなら下段が主武器となるフルコンの試合ではもっとこのような事故が起きるはずである。偶々、試合や組手で上述したような脛同士の衝突のタイミングが悪かったり(?)脛の微妙に打たれ弱い(骨密度が低い?)所などに当たると、蹴った相手が膝を抱えて蹲(うずくま)るという事が良くある。

しかしまた一方、逆説的な(厳しい?)言い方になるが、練習量が十分でミットやサンドバッグ、もしくはスパーリングをこなして良く蹴り込んでいたりすれば、脛はドンドン硬くなるのでこういう事はまずないものである。関西本部から聞くと中々仕事が忙しくて永島選手はあまり練習にも顔を出せていなかったとのこと。本人も電話で「このままじゃ恰好がつかないので必ずカンバックします」と力強く答えてくれた。捲土重来を期待したい。

西日本地区予選入賞者

加藤選手の大きさに注目最後に、予選は秋の地区大会(もしくは世界大会)以来眠っていた(笑&泣)多くの塾生の体調のアップや試合勘を取り戻す意味もあるから(世界を狙う選手はこれでは駄目なのだが)最低3試合か4試合はするよう組み合わせる。そこで」始めから-250の1位と、-260の1位が参考試合として戦う事にしていたのだが、こんな事故のあった後で皆の気持ちが退いているので、市川に「しなくても良いがどうする?」とい聞いたところ「やって見たいです」との返事。

前述したように「世界大会」が体力(指数)別なので、選手選考を公平、正確にという意味で、1年前から(通常「無差別」の)秋の大会も体力別で行っている。これの怖さ(?)は、武道の本質(と私は考える)である「護身の手段としての武道」いう考えが薄くなる事だ。単なるスポーツなら自分より大きな相手と戦う必要はないし、最高の動きができなくなったから現役引退という考えも分かるが、リングや試合場ではなく、現実の場で自分なり身内なりを守るとか、対処するためにする武道で「体力差が有るから」とか「もう年だから戦わない」などいうことは基本的な矛盾である。

「普通そんなことは殆どないのだから、考える必要はない」という人がいる。しかし、“巡り合わせ”というのかもしれないが、全くない事はないのである。先日、私が1階のジムでトレーニングをしていたなら、70歳前の人が「ここでは護身も教えるのですか? 実は先日オヤジ狩りに会いまして(情けない事に家内が大きな声で助けを呼んだので助かりましたが)・・・」と言って来た。

最近は新聞を開けはそんな事件やあんな事件と、昔なら世の中がひっくり返っただろう様な事件が毎日紙面を賑わす!!残念ながら我々はそんな時代に生活しているのだ。いつ明日は我が身となるかもしれない。そんな時に「そんなことはそんなにあるものじゃない」などとよく安穏と構えていられるのか不思議でしょうがない。(まるで平和憲法に守られている日本みたいだ 爆)

連載漫画「上等だぁ!」第2話より私は小学校の悪ガキ時代のあの「覆い被さって来た大柄な番長」のトラウマがあるからだけではなく“自分が”でなくても比較的そういう場面によく遭遇する 笑。それほど物騒でなくても、新聞に「○○県の民家にクマが押し入って来た所を70歳になる○○さんは気丈にも追い返しました」等という記事が出る。そういう場合、やはり常にそういう状況を前提として練習しているのと「これは試合の為だから」と言う心構えで汗を流すのでは、その場面に遭遇した場合の心根の強さは違ってくるのではなかろうか?

勿論、顔面を攻撃する競技で極端な体力差は危険である。しかし空道は打撃だけのボクシングやそれに蹴りや肘打ちが加わったムエタイと違い、3分の試合の間に寝技が1分(30秒が2回)も許されているし掴み(もしくはクリンチ)も10秒以内なら何度でも許される。戦いの工夫はいくらでもあるはずだ。

更に言えば、私はそれほど精神力は強くないので(笑)、決して“精神主義者”ではなと思うが、強豪(もしくは“そう見える相手”)と戦う時に、「強そーだなー」とか「嫌だなー」とか思って試合に臨むのと、「よし、上等だ、勝負しようじゃないか(勝負しようじゃねーかぁー)!」とか、「皆が強いと思ってるあの選手(あいつ!笑)を食ってやるぞ!」という気持ちがあるのとでは、動きのぎこちなさだけではなく、骨の硬さにも影響してくるものである。その典型である試し割りを考えると良く分かるが、「うわぁー、これは割れそうもないなー」とか「すごく固そうだ」と思ってブロックやレンガを叩いたりバットや氷を蹴るのでは結果に雲泥の差がある。

だから私は大道塾設立間もないころ存続を掛けて毎週“試し割り行脚(巡業)”をして回っていた頃は、試し割をした事のない弟子には(勿論それなりに「これならできる」と見定めた人間にだが)、寮生の誕生会などで“程良く飲んで(泥酔は駄目笑)、”精神的なリミッターが外れた頃に、しばしば試し割の練習をさせたものである。そうすると素面(しらふ)の時には「絶対に割れないですよー」などと尻込みしてた弟子でも見事に割ることができる。そうなると次からは酔いがなくても(笑)見事に割れるようになるのだ。尚、この育成法(笑)については賛否両論があるのは承知していますので、後日触れます 爆。

そういう意味で、やはり体力差からのパワー違いから同じく腕絡みで一本は取られたとはいえ、市川の勇気を讃えたい。選手は「相手に向かって行ってこそ」次の飛躍に繋がるからである。(だから良くセコンドが「下がるな!」と言うのは、この回路(理屈)を知っていて言うのであれば、一概にタダの“竹やり精神”とは言えないのだ。

それにしても昨年の結果から重苦しい年明けだったが、九州、西日本の予選を見る限り、若手とベテランが良い具合に混じり合って良い試合が多かった。この調子で北海道、関東、東北と続いて欲しいものだ。


西日本交流戦入賞者尚、本稿は予定にないことだったが、中々いい試合が多かったので、閉会式の中での紋切り型の言葉でなく、頑張った選手に「良い試合だったぞ!!」と言葉を重ねたかったし、これからの地区にも刺激になるとと急遽パソコンに向かったもので、2面を同時に見ながらのヤグラに赤線を入れるのが精一杯な中、記録のビデオもなく乏しい記憶力で書いているので(笑)具体的な技での解説はあまりありません。研究されない為にも、選手には好都合でしょうが笑。やはり本当に技術を盗む(?勉強)気なら、現場に行ってみて欲しいものです。

但し、次の関東大会や東北大会でも観戦記を期待(?)されても困りますので、又例によっての「塾長の気まぐれ」と思って下さい。俺にはすることは山の位(仙台弁?=一杯)あるんだ・・・。


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2010.3.24記(3.27一部修正追加)

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