ロシア試合レポート

東孝

今回の試合はこの話が始めにあった時に発表したように、「応援ツアー」も考えていた。その為、試合前は動けないだろうが、試合後には応援に来て頂く人達に一日同行するための日程を空けていた。
しかし、あるロシア通に言わせると「まだまだロシアは情報公開には慎重ですよ。ましてや政府主催となれば・・・」というように最近ならどの試合でもある、事前告知や情報公開等は不十分で、試合の詳細(規模、会場、進行時間、後援など)は、こっちに来て始めて分かり、本部のHPに載せたような次第だから(※1 9月30日付速報)、責任を持って「応援ツアー」の声をかけることが出来なかった。観戦を希望された方々にはこの場を借りてお詫び申し上げます。

そんな訳で昨日は夕方に「ブラックベルト」というロシアの格闘技誌(アメリカの同名誌とは無関係)の取材があっただけで公式行事はなかった。日中はモスクワ市内から150キロほどのところにある(当然彼らの運転だから4、50分で行く(泣))、郊外の釣堀(とはいっても河を止めた1キロほどのもので、全てが日本とはスケールが違う!)に行きブランチと行った感じで飲み食いしたりして、結構ノンビリ出来た。お陰で、ここのところ遠征に出ても書けなかったこんな雑文にも手を伸ばせた、という所。

大道塾のヨーロッパ躍進を決定付けた「パリ・ベルシー2004(※2 遠征レポート参照)」のロシア版ともいえる「International Match in Martial arts "National team of Russia vs World team" (ロシア対世界国際武道・格闘技戦)」は「ロシア/スポ−ツ省(Federal Agency for Physical Culture and sprts)」の主催、「ロシア格闘技連盟」主管の国際大会で、会場はロシアがオリンピック会場として建設し、軍が管轄する国営施設“LUZHNIKI(ルズィニキ)体育館 ”である。

昨日下見に行ってきたが、まるで日本でのK-1やプライドといった大掛かりな会場設営を見て、「あの高い場所からスモークを焚かれ、レーザーで照射されながら降りつつ、選手紹介をされるんだろうな」と言ったところ、空道代表、平塚洋二郎選手は、「エエッ!」と一旦絶句するも、次の瞬間には嬉しそうな顔になる(笑)ヨシヨシこの度胸があれば大丈夫だ!

参加国・種目数は、16ヶ国14種目・・ボクシング、コマンドサンボ、キックボクシング、コンプレックスコンバット、テコンドウ、ムエタイ、相撲、松涛館空手、空道、極真空手(松井派)、散打、芦原空手、カポエラ、ヴェットヴォダオ(ヴェトナムの格闘技)で、ひとつの階級だけだが、各種目一試合ずつ、世界王者対ロシア王者が、ワンマッチで真剣勝負をするというもの。

世界への躍進著しい(自画自賛承知 笑)「空道」が、オリンピック入りを狙っているアマチュア相撲(団体戦)と同じ場所で戦えるというのは嬉しい反面、エッ!何でこれが試合をするの?という違和感を覚える競技もあるが、(私は忙し過ぎて他の競技を見るヒマがないから知らないだけかも知れないが)、主催者の話では、「その分野では世界的なスターという選手が多数出ている」そうだ。
しかし、その本気度は、アレクサンダー・ウスチノフ(K-1)、日本でのプロ格闘競技マッチを通じて世界的な格闘技界のスターとなっているヒョードルといった選手が出ることや、ロシアのNHKとでも言うべき第1チャンネルで1時間に亘って放映されるということでも推し測れるだろう。

試合は8000人収容の会場の9割ほどが埋まり、凄い盛り上がりだった。それに加えて、セコンドで行ったはずの清水が急遽副審をすることになり、言葉も全く分からないロシア側のセコンドになったり(以前も言ったが彼らはまだセコンドはあくまで時間を計るだけといった、逆に武道的な意味しか考えていないので大してそれを重要視していない)、K-1並の派手な進行にさすがに平塚も上がり気味。試合直後、右下段蹴り(後日画像アップにご期待)。それに対しての反撃の右フックはブロックしたが、腰高になっているから、思わず転倒してしまった。それを審判に打撃による転倒と取られ「効果」とされた。これに焦ったかその後も、カウンターのヒザ蹴りは数発ヒットするものの、例によっての打たれ強さのロシア戦士、ダメージをものともせずに、その腰高の脚を抱えてタックルし倒す。それではと中段を蹴るも同じく蹴っては掴まれ、蹴っては掴まれ転倒を繰り返す。延長で逆にそれを返し、ニー・インザ・ベリー(膝押さえ)でパンチを出すも寝技のタイムアップで惜しくも五分に出来なかった。

<空道ワンマッチ戦>
平塚洋二郎(日本・九州本部)●―○ケリモフ・シャンハル(ロシア・モスクワ)
ケリモフ選手の効果判定勝ち
右中段回し蹴りへのケリモフ選手のカウンターフック。
当たってはいなかったが転倒した為「効果」を取られ判定負け。
※塾長注:明らかなミスジャッジだが、それを割り引いたとしても、試合内容で書いているように、平塚の負け

それにしても平塚得意の下がりながらの攻撃も体がガチガチでの蹴りだから重さもしなやかさもなく、相手は軽くブロックし、もしくはブロックさえもせずに、中に入って当たりはしないが反撃のパンチを振り回すから、平塚の防戦一方に見え審判への印象点は元々不利だ。それでも延長戦ではその前進に対しカウンターの膝が入り始めたのだが、トーナメントではダメージが蓄積するだろうが、彼ら外国勢持ち前の強靭な身体は1、2回戦くらい十分に持ちこたえる。逆に腰高のその足を抱えて転倒させるという展開で終始したので、平塚の「判定負け」も致し方ないところ。

大会そのものは、ロシア側の選手がみな国内トップ選手であるのに対し、対戦者のレベルがかなりひどかったため(ヒョードル の相手は始めから逃げ回っていて、一発貰ったならたちまち戦意喪失で、K-1選手の相手も同様だった 泣)、ロシア対国際チームの結果は「15他1」という圧倒的な差で終わり、主催者側もその人選を反省したようだ。しかし平塚にも話したが、「ウチとしては、こんな観客の前で闘い、試合度胸をつけるチャンスが貰えた事や、改めて海外勢の体力を肌で感じ肝に銘じ今後に生かす、という意味では良かったかもしれんな」と収穫はあったと言っていいだろう。

特に改めて対外国人戦について色々考えさせられた。以下はそのことについて思うままに並べてみた。

1) 日本人相手ならカウンターの膝がきれいに決まったなら即一本ということもよくあるが、彼等と闘う時は始めから「膝蹴りは当たってもすぐダメージには繋がらず抱えられる」と思っておいた方が、即、次の攻撃(頭突き、肘打ち、タックル切り)に移行できる。

2) 彼らとまともに打ち合ってはダメ」だが、かと言って全く打ち合わなければ今回のように、「技では勝っても試合で負ける」という結果になってしまう。平塚がそう考えている訳ではないが、最近、一部にそれを「技では勝ったのだから・・・」と、ラウンド制の発想でよしとする(もしくは負け惜しみをする)傾向もある。それでは、本戦かせいぜい延長戦で決まるトーナメント制の試合で勝ち残ることは出来ない。そしてまた、「空道」の前提が護身だとしたなら、その発想こそがあるべき姿であろう。

3) いつも指摘するとおり、力では勝てないからと体力強化を捨てるのでは、海外勢との体力差はますます広がる一方である。絶対的に寝技に自信があり、倒されることも寝技への“撒き餌”や“ルアー(誘い)”―釣堀の影響(笑) なら言うことはないが、そこまでの自信がないのなら、護身的な意味でも倒されないに越したことはない。第一、いかに腰高だとは言っても元々が軽重量級の選手に何度もテイクダウン(転倒)されるというのは、相手が同じ階級ならどうなるかを考えれば明白であろう。「相手の7、8割でも良いから力での均衡を心掛けること。「力の均衡のないところに平和はない(笑)」

4) 良い技が入って相手に多少のダメージが認められたなら、そこを見逃さずに一気に畳み込むアグレッシブさがなければ打撃戦での勝機はない。「のべつ幕なしの打ち合いは避けるにしても、深追いしない程度には基本的な“ヒット&アウェイ”を心掛け、ここぞ!という時には“嵩(かさ)に懸かる(笑) ”こと」。

5)「セコンドのあるなしについても、「的確なアドバイスや、相手の弱点の指摘なども、あればあったほうが良いが、現実の場で戦うのは基本的に“己一人”だ。」という武道的発想が出来ないと、特に海外での試合は、圧倒的な声援の差や、どうしてもあるホームタウンデシジョン(地元の身贔屓判定)などを考えると、始めからハンディを背負うことになる。」

6)では彼らに対し比較すれば非力は日本人が基本とすべき勝ち方はなにか?打たれ強い彼らには、余程タイミングがいい場合は別だが、通常は「打撃」だけで倒すことは難しい。かと言って「投げ」だけでは余計に体力差は大きなハンディとなる。

そこで考えられるのが、その両方を組み合わせた、「的確な打撃」+「投げ?極め」でのポイントで勝つ戦法である。たとえば、山崎の得意とした、頭突き?投げ。これも前方(背負い、体落とし、払い腰など)だけでなく、後への刈り技(大内刈り、小内刈りなど)。また、打撃系の選手は殆ど半身で構えるからその前足を狙っての、パンチの連打?大内刈り、小内刈り。よく見られる、相手の膝蹴りに対しての軸足払い。キック的に膝蹴りで背中を蹴らせながらの腰投げ。今回は逆にされていた、相手の前進を掻い潜ってのタックル?テイクダウン?極め。更にはフェイントパンチから相手の袖を掴んでの大外刈り等々・・まだ開発されていないコンビネーションはいくらでもあるはずだ。
「投げ技+極め」は最もダメージが残らず、しかも打撃中心の選手は片足立ちになる事が多いという、投げだけを考えたなら絶好のチャンスが度々ある。勿論、「投げ+ポイント」だけに拘っていると、どんな戦法も可能な空道の試合では、組技中心の選手に対した時、自分の打撃が一定レベルでなければ、逆にそこが弱点になる。正に我々は今、「全てを包含し、しかし拘(かかわ)らない」という、「空の道」を実践するしかない!

文章日付 初稿2006.10.2 改訂2006.10.5

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