ベトナム遠征レポート

笹沢一有(早稲田大学準支部)

12月9日からベトナムのハノイで開催された世界武術選手権において、散打の試合に出させていただきましたので、報告いたします。

12月7日

成田空港で帯広支部の佐々木先輩、総本部の植田先輩と東京散手倶楽部の方々と合流し、ホーチミン経由でハノイに向かいました。佐々木先輩と東京散手倶楽部の方々とは面識がありませんでしたがすぐに親しくなり、和やかな雰囲気のフライトでした。というのも、選手はみんな減量という共通の目的を持っていたこともあり、話題に困ることはありませんでした。
ホーチミンで飛行機を乗り継いでハノイのホテルに着いたのは夜の11時、成田を離れて13時間後でした。選手団の中にはまともに英語を話せる人がいなかったため、非常に困難な道のりでした。減量と移動による疲労のため、シャワーを浴びるなりすぐに寝ました。

12月8日

午前7時、たえまなく鳴り響くクラクションで目が覚めました。ホテルの前の道路を見るとおびただしい数のバイクで道路が埋め尽くされ、どの人もせわしなくクラクションを鳴らしていました。9日が計量日でこの日は何もなかったので会場に下見に行きました。会場は周囲の建物とは一線を画し、立派な外見のものでした。シャドーやサンドバッグを使って運動しましたがもはや汗は出ませんでした。イタリアチームと少し話して仲良くなり、イタリア国旗のピンバッヂと名刺を交換しました。こういったちょっとした交流に、世界大会の楽しさを感じました。
ホテルに帰ると体重計がないことが判明したので、選手の皆と市外へ探しに行くことに。途中、軽くボられながら買い物をしつつ探しましたが、体重計はついに見つかりませんでした。ベトナムでは体重を計るという習慣はないようでした。散々歩き回って日が暮れ、ホテルに帰りました。

12月9日

待ちに待った計量日です。午前6時半にバスで会場に行きましたが、計量が始まったのは8時半でした。自分はマイナス1.2キロまで減ってしまっていて余裕のパスでした。2週間で10キロ落としたのですが、正確な体重計がなかったことが非常に勿体無く感じました。海外遠征では持ち運びができるデジタルの体重計が不可欠だと、勉強になりました。

朝食をかきこんだ後、ホテルの駐車場で相撲、めならし、レスリングなどの練習をしました。レスリング出身の佐々木先輩にいくつか技を教えていただき、非常に勉強になりました。練習後、この日ベトナムに入った東先生、奥様、三輪先輩と食事へ行きました。成田からの時間があまりに濃かったため、先生方が何か懐かしく感じました。
夜には開会式がありました。参加国は100カ国を数えるとか数えないとかで、スポットライトやビームを使い、かなり華やかなものでした。一時間で終わるはずでしたが、式後に演舞のデモンストレーションやマスゲームが延々と続き、11時になっても終わる気配がなかったため途中で抜け、皆で食事に行きました。東先生が泊まられているホテルのレストランで食事をしたのですが、皆でギャグで食べたすっぽんゼリーが意外に美味く、この旅1番の大ヒットでした。

12月10日

この日から試合が始まりました。というのも散打の試合は1日に1試合で、5日間におよぶトーナメントなのです。自分の出番は昼の部の一番最後でしたが、その前に散手倶楽部の高橋選手の試合を応援しました。序盤はかなり押していていけると思ったのですが、後半に盛り返され負けてしまいました。あとで聞くと、前日に食べ物にあたり、試合どころではなかったそうです。

自分の出番には東先生と植田先輩がセコンドについてくださいました。75キロ級にエントリーしたのですが、自分とその相手だけ一試合多く、いわゆる逆シードでした。しかも二回戦が有名な世界チャンピオンらしいのですが、とにかく目の前の試合を勝つしかないと思っていました。相手はウズベキスタン人でした。試合開始直後、突進して来られ、いきなり面食らいました。場外に押し出されてしまいましたが、相手も引きずり下ろしたためノーポイント。基本的に相手は突進して組み付くタイプのようでしたが、打撃もできる上、散打の技術で突進して来るので非常にカウンターが合わせにくく厄介でした。1ラウンド目は、打撃は互角でしたが投げ勝ち、1ラウンド先取しました。しかしスタミナをほとんど消耗してしまいました。

インターバルにセコンド席に戻ると東先生がマッサージや叱咤激励してくださいましたが、もはや声を出す気力もありませんでした。2ラウンド目が始まると、明らかに自分のスピードが落ちていることを感じました。相手は依然投げに来ますが、堪えきれず投げを許す場面が多くなってきました。組際にいいフックをもらい、場外にも一度押し出され、絶体絶命でしたが、終了間際に2度相手を場外に押し出し2ラウンドを連取し、辛くも一回戦を突破しました。

感想は、しんどいの一言です。寝技がないため早々の一本勝ちはなく、いちいちタイマーを止めるため、組みが多い試合では、試合時間がかなり長くなります。1ラウンド2分と決まっていますが、ロスタイムを入れると5分ほどになるのでした。
厳しい試合でしたが、東先生にセコンドについていただけて、本当に心強く感じました。

試合後、散手倶楽部の柏木選手の試合を観戦しました。劣勢な試合展開で終了間際、ソクタンと呼ばれる散打特有の右上段横蹴りをもらってのKOでした。ソクタンの有効性に疑問を持っていたのでしたが、警戒心を新たにしました。


試合後、エガモフ選手と

12日11日

この日は午前の部早々に植田先輩の試合がありあました。昼に試合はなく、夜に佐々木先輩と自分の試合があります。佐々木先輩はロシア人と、僕は世界チャンピオンのイランのオジャイ選手と決まっていました。
植田先輩が自分をセコンドに指名してくださったので、東先生と2人でセコンドにつきました。相手はブラジルの選手でしたが、スタイルが噛み合わず、惜しくも負けてしまいました。

アップなどをし、自分の出番がやって来ました。試合前、相手のオジャイ選手と二言三言会話をしましたが、本人もチームも油断していることが感じられたので、いけると思いました。また、会場の客席よりの場所でアップしていると、ヘイ日本人!と言う声が。振り向くと最前列のベトナムの子供たちが手を振っています。サービスにシャドーを見せてやると、「おーっ」と声を出し喜んでくれるので、こちらもノってきました。東先生もこういう雰囲気は好きかと尋ねてくるので、当然大好きだと答えました。

ベトナムの散打の試合は独特の雰囲気があります。観客はほとんどが現地の人々です。そして子供達が多いです。ベトナム人の試合では大変盛り上がるのは当然ですが、良い技が出ると国を問わず大きくスタジアムが沸くのでした。昨日の試合の反省を活かし、今回は自分から主導権を取りにいくという作戦を東先生と打ち合わせました。
試合開始序盤はジャブで主導権を取りにいくと、手応えは悪くありませんでした。しかし中盤から相手が巧みなコンビネーションを使い始めました。さすが世界チャンピオンだなぁ、と試合中にも関わらず感じるほどで、1ラウンド目は落としてしまいました。しかしインターバルに戻るときほとんどスタミナを消耗していないことを感じました。1ラウンド目は打撃のみで勝負したのでスタミナを温存できました。しかし2ラウンド目は、打撃のみでラウンドを取ることはほぼ不可能と感じたのでパンチと投げを混ぜて使い、足払いなどでポイントを奪い、主導権を取ることができました。3ラウンド目は東先生の指示でローを使い、ラウンドを連取し試合に勝つことができました。ベトナムの人々の応援が大いに力になりました。

試合後
試合後

その後、佐々木先輩のセコンドにつきましたが、相手のロシア人が予想以上の強さで、負けてしまいました。結局このロシア人は優勝するのですが、私が生で見たことがある選手の中で一番巧いんじゃないかと感じました。

12月12日

この日男子の試合は休みでしたが、北斗旗世界選手権で女子2位だったロシアのロディオロバ選手の試合が午前にあったため応援に行きました。結果はルーマニアの選手に負けてしまいましたが、同じ大道塾の選手と異国の試合で会うことができ、空道がワールドワイドな競技になっていることを実感しました。
この後、選手皆でハノイ観光のメインストリートへ繰り出しました。

12月13日

この日は午前の早くに試合があるので6時ごろ起きました。相手はイタリア人でした。オジャイ戦同様、前半は打撃で行くことにしました。ビデオで見たとおり、やはりそんなに打撃が上手くはありませんでした。ハイを掴み、倒すなど、いけるかと思いましたが、バランスを崩したところを場外に一度押し出されてしまい、1ラウンド目を落としてしまいました。2ラウンド目も、相手の打撃をもらうことはほとんどありませんでしたが、自分でバランスを崩してコケるなどしてこのラウンドも落とし、負けてしまいました。油断したわけではありませんでしたが、オジャイ戦ほどのモチベーションがなかったのは否めませんでした。自分でも負ける相手ではないと思っていただけに非常に悔しく、勉強になりました。


ランシスコ選手(イタリア)と

12月14・15日

14日には決勝を観戦しました。決勝に残っている国はベトナム、中国、韓国、ロシア、フィリピンなどでした。基本的に中国が打撃・レスリングテクニックともにレベルが高く、多くの階級を制していました。次いでフィリピン、ベトナムといった東南アジアの選手も打撃が巧くレベルの高さを感じました。
しかし、注目すべきは佐々木先輩を倒したロシアの選手でした。アマチュアボクシングのテクニックに長けており、加えてパンチ力も強烈と、ディフェンス・オフェンスともにボクシング的には文句なし。しかも、キックのテクニックもズバ抜けており、死角なしといった感でぶっち切りで優勝していました。敵ではありましたが非常に勉強になりました。

このベトナム遠征を通して、格闘技に関すること、それ以外のことも含め、様々なことを経験し、学ぶことができました。多方面でサポートしてくださった先生の奥様、三輪先輩、コーチの皆様、この旅を楽しいものにしてくれた選手団の皆様、そしてこのような機会を与えてくださった東先生、大道塾の諸先輩方に非常に感謝しています。今回の旅を糧に、修行に励んで強くなり活躍することでお礼をしたいと思います。押忍。

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