ロシア遠征記

服部宏明(京都教室)

押忍。京都教室の服部宏明です。
今回は、4/25〜29と行かせて頂きましたロシア遠征について報告したいと思います。

最初にこのお話を頂いたのは予選の3週間くらい前でした。自分なんかでいいのかな?とも思いましたが、以前から一度は海外で試合をしてみたい!と思っていたので、ちょっと悩んでから「行きます!」と返事をしました。メンバーは東先生、今野選手(仙台北)、伊賀選手〈関西〉鈴木選手(石巻)、私、服部(京都)の5名でした。初めてのロシア、初めての海外での試合、と緊張が高まります・・・。

初日
ロシアまでの飛行機では、伊賀君としょうもないことを喋りつづけ、約10時間という長時間ではありましたが、おかげで退屈せずにすみました。 機内にはロシア人と見られる愛想のないスチュワーデスがおり、僕らも関西本部の寺本先輩ばりに文句を言おうと、「仕事なんだからちゃんとしようよー」とボソボソ言ってみましたが、日本語なので通じるはずもありません。しまいには「なに言ってんだ、こいつ!」というような顔でにらまれてしまいました。

そしてついにモスクワ空港に到着し、入国手続きに入ります。ここで、係員が先生を見つけると、並んでいた我々に別のゲートに来るように指示してきました。どうやら手続きの全てを先にやってくれるようです。噂通りのVIP待遇で、短時間で手続きをすることができました。 空港にはフィリポフさんをはじめ、たくさんのロシアの方が出迎えに来てくれています。なんとテレビ局も来ているとのことで、先生はその場ですぐにインタビューを受けていらっしゃいました。
インタビューが終わると移動です。自分と伊賀は、ベゼルチャコフさんに、「君らはこっちだ!」と呼ばれ、彼の運転するギャランに乗りこみます。いきなり先生と引き離され、僕ら2人の緊張は否応なく高まります。さすがの伊賀も口数が少なくなりました。しばらくしてから、ベゼルチャコフさんの「GO−GO−!」という声とともにギャランは急発進し、速度はすぐに180キロほどに達しました。このスピードでぎゅんぎゅん周りの車を抜いていき、挙句の果てにはケイタイで話を始め、軽快に片手でハンドルを操っています。ロシアの方は運転が荒いとは聞いていましたが、まるでジェットコースターみたいでした・・・
そして、車はアパートが立ち並ぶ一角に停まります。どうみてもホテルがあるようにはには見えません。車を降りるベゼルチャコフさんについていくと、怪しいドアを開け、地下への階段を降りていきます。「おいおい、どこ連れてく気だよ!早くホテル行こうよ!」完全にびびっている自分は階段の下にあった一室に連れ込まれました。そこには屈強なロシア人たちが・・・とりあえす「押忍!」と言ってみると、「押忍!」と帰ってきます。どうやらそこでは計量を行うようです。そうならそうと早く言ってよ!
この計量所に来る途中に、街のメインストリートらしきところを通りました。その道路の両脇には明日の試合の宣伝がズラ〜っと並んでいます。この大会における彼らの気合いを感じました。ベゼルチャコフさんも、「KU−DO−KU−DO−!」と誇らしげでした。

計量を終えると、先生と今野さん、鈴木君と合流してホテルマリオットに着きました。噂どおりの綺麗なホテルで、キタナイジーパンにトレーナーという自分の格好はあきらかに浮いておりました。そんな中でも、唯一ずっとスーツ姿だった今野さんはお洒落に輝いてました。
夕食にはアナスキン支部長、ゾーリン支部長、ベゼルチャコフさん、通訳のジアンナさんを交え、美味しいものをたくさん食べさせて頂きました。時間はもう21時近くでしたが、ロシアではこの時間はまだ夕暮れ、といった感じで、少し前には完全に太陽が出ていました。あまりに明るいので、今はもしかして朝か?と混乱してしまいました。 そして就寝、心地よい疲れの中、眠りにつきました・・・。

2日目
ついに試合の日となりました。思ったより時差の影響もないように思えます。
自分たちの試合は14時くらいから、とのことでしたが、運営の関係上早めに、とのことで9時頃に会場入りしました。会場はスケートリンクの上にマットを敷き、その上に試合場が作られて、風船などで飾られており、なかなか綺麗にできていました。マットの上にも上りましたが、かなり滑る印象でした。会場には、最初こそ人は少なかったですが、後半になると、かなりの数の観客が入り、けっこうな盛り上がりでした。
試合の予定は、10時くらいから予選を開始、12時くらいに開会式、その後の16人の本戦から自分たち日本人選手の出場とのこと。まだかなり時間があるので、予選を観戦しながら、写真を撮ったり、軽くアップをしたり、とリラックスしていましたが・・・。 体を冷やしてはいけない、と伊賀と控え室に入った所を、ゾーリン支部長が呼びに来られました。「イガ、シアイ、シアイ、ツギ!」と言っておられます。時間は11時。2人して、何を言ってるんだ?もしかして酔っておられるのか?と混乱しますが、どうやら本当に試合のようです。やむを得ず、伊賀は用意をし、試合場に向かいました。

伊賀一回戦
開始から伊賀の動きがあきらかにおかしく、慣れない後ろ回し蹴りを出した所、相手ともつれるようにして倒れます。しかしそこから上手く絞めの体勢に!完全に入っており、秒殺かと思われましたが、場外に逃げられました。相手は委細かまわず前に出てきてパンチを振りまわし、その中で右のダブルがヒット!伊賀は前のめりに倒れます。すぐに立ち上がるも、明らかに足にきています。それでも伊賀は意地で前に出ますが、またも連打でダウン。後半反撃を見せるも、そのまま判定へ・・・
試合を終えたにも関わらず、汗をかいていない伊賀。全くいつもの動きではありませんでした。彼の強さを体で知っている自分としても、衝撃の結果でした。コンディションを乱されれば伊賀ほどの選手でもこんな結果になるのでしょうか?本部席に行って状況を確認すると、軽量級のみ日本人も予選からの参加、と急遽決まったとのこと。しかし、信用することは危険なので、いつ呼ばれてもいいように用意をしておこう、と皆で話していたとき・・・、「コンノ、シアイ、ツギ!」と連絡が・・・いくらなんでも準備はできていません、しかし、今野さんは「行きましょう、大丈夫です」と気丈に答えます。

今野さん一回戦
やはり動きには硬さが見られます。しかし全体的に今野さんペースで試合は進み、そのまま終了か、と思ったとき・・・相手選手の左ハイが今野さんのマスクを綺麗に捕らえます。ぐらついたところを膝蹴りで追い討ちをかけられ、効果が出たところで終了!厳しい判定も予想されましたが、効果1で、内容は今野さんが押していたとのことで延長へ。
ここで効果以上を取らないと自動的に負けになります。今野さんは落ち着いてマウントで効果!続いて2回目のグラウンドでヒザ十字の体勢になります。相手はなかなか参ったしませんでしたが、ついにタップ!会心の一本勝ちとなりました。
再び本部席に行くと、中量級もさっき急遽決まった、とのこと。もう何がなんだかわかりません。とにかくいつでもやれるようにはしておこう、と同じ軽重量級に出場する鈴木君と話します。とりあえず予定ではこれから開会式、その後すぐに軽重量級とのことです。 
時間は13時を過ぎ、開会式の前のセレモニーが始まります。ここでは水着の上に空手着の上だけを羽織った女性のダンス(後半は道着を脱いでました)や、アイドルグループの歌、道場生による音楽に合わせたスパーリング、ミット打ち(音楽がゆっくりになったら動きもゆっくりになった)などが試合場の上でいつ終わるともなく続きました。最後の方には水着で踊る女性の周りでミット打ちやスパーをしてました。
ついに開会式が始まりました。自分たちが入場すると、けっこうな歓声が起こり、注目を集め、写真なんかも撮られています。やはり、日本の選手ということで注目されているようです。
先生が挨拶をされた時には、会場から大歓声が上がります。「空道をやっている人に悪い人はいない!強い人が人間的に良い人だと素直に祝福したくなるし、周りも幸せになる。しかし、その逆の場合は社会にとっての迷惑になる」という言葉には、妙に納得してしまいました。「空道をオリンピック競技に!」という言葉にも反応は良く、ロシアの地で「空道」は根付きつつあるんだなって感じました。 
開会式が終わり、自分と鈴木君はすぐにアップを始めます。 しかし、試合場では、大きな人たちが試合をしてます。どうやら、超重量級の試合のようです。 いったい軽重量級の試合はいつ?トーナメント表も会場には貼ってますが、自分がどこか、そして今どこの試合をやっているのかわかりません。
しばらくたって、どうやら次の次の試合らしいと鈴木君がスクリーンに映った選手の名前を見てきました。今度こそは、とすぐにアップを始めます。 すると、鈴木君の名前が呼ばれ、自分の名前も。自分は鈴木君の次の試合のようです。

鈴木君一回戦
相手は、世界大会で鮮烈な印象を残したベスラン・ダシャエフ。一階級あげてのエントリーです。
予選では相手をパンチで秒殺するなど、圧倒的な強さを見せています。試合が始まり、鈴木君は臆することなく前に出てパンチでプレッシャーをかけます。さすがのダシャエフもたじろいだのかバックステップをします。ここでダシャエフの強烈な右のボディがヒット!この一発で流れは変わり、パンチでダウン!さらに左ハイでもダウン!鈴木君はすぐに立ち上がり、大きくジャンプして気合を入れるも、バランスを崩して倒れてしまい、それを見た主審が続行不能の判断を下しました。

服部一回戦
自分の試合は完敗だったので言い訳を書きたくないですが、報告だけさせて頂きます。 開始すぐに相手が突っ込んできます。完全に出鼻をくじかれますが、組み止め、グラウンドに入ります。ガードポジションになっても止まらずに全力で殴りつづける相手、まさに獣のようでした。なんとか左腕を極めかけますが、グラウンドの時間が終了。そのまま相手のペースで試合は進み、判定へ。なんと判定は自分に上がりますが、その瞬間に場内から大ブーイングが!主審も困惑した様子でしたが、協議の結果、延長へ。延長では終盤に相手のパンチをまとめられ、判定0−5での負けでした。
4人中3人が一回戦負けという結果に、控え室は重苦しい雰囲気です・・・、でもまだ今野さんが残っています。こうなったら彼に頑張ってもらうしかないです。

今野さん二回戦
相手は軽快なステップを踏むキックっぽい選手。開始しばらくで、足払い、極めで効果を取られます。相手は攻めてこないでカウンターを取るタイプらしく、今野さんも攻めあぐねています。しかし、スキをついてマウントから効果!ヒザ十字が極まりかける場面もあったものの延長へ。延長でも一進一退の試合展開だったが、判定は相手選手へ。 
この結果に、みんなしばらくは呆然としていました。でもせっかくだから試合を見て帰ろう、とのことで試合会場に戻ります。会場では、負けてしまった自分なんかに写真を撮ってくれ、とかサインをしてくれ、とか暖かい対応をしてもらいました。子供からはチョコなんかをもらい、サインをして「頑張れよ」なんて言ってみるものの、頑張らないといけないのはのはオレだろ、と自己嫌悪に陥りそうでした。
軽量級は、デニス・シニューチンが圧倒的な強さで勝ち上がりましたが、決勝では緑帯の選手に押され、延長で腕ひしぎを極められ1本負け。中量級は知らない選手が優勝。 軽重量級はベスラン・ダシャエフが圧倒的強さで優勝。もう一人の世界大会組のババヤンは、世界大会以後は不調とのことで、2回戦くらいでスシコフという選手兼モデルに負けてしまいました。 重量級は知らない選手が優勝。超重量級は、本命のフィリポフが2回戦、日拳チックな選手に判定負け。優勝は緑帯の選手でした。 
大会を見てみると、トップの選手に関しては力は勿論のこと、技術もかなり高いものを持っているな、と感じました。自分が当たったような無名の選手でも力はものすごく、2階級上の力、ということを実感できました。試合前は、打ち合うなとは言われていても、「打ち合わなくてどうする!」と強気でしたが、やはり今後は戦略の見直しとパワーアップを同時に考えないといけないなと思いました。「技は力の中にあり!」この言葉を本当に痛感しました。 試合も無名の選手が優勝するなど、ロシアの選手層の厚さを感じました。
そして試合は終わり、最も恐れていたウォッカタイムかと思われましたが・・・なぜか今回は行われず、無事にホテルに帰ることができました。
*試合内容については自分の記憶を頼りに書きましたので、間違いがあったらお許しください。

3日目
この日はモスクワを観光しました。付き添いのロミオさんが「赤の広場」、「モスクワ大学」などに連れて行ってくれました。彼は稲田先輩のことが大のお気に入りらしく、「イナダ、イナダ」とずっと言っておりました。彼はこの観光中、自分たちにずっと付き添ってくれ、本当にありがたく思いました。最後に稲田先輩と渡辺慎二先輩によろしく伝えてくれ、とのことでした。 夜にはサーカスを見に行きました。サーカスの人たちの動きを見ていると、自分ももっともっと稽古して強くなりたい!と素朴に思いました。

4日目
ついに日本に帰る日となりました。最後の昼食では、アナスキン支部長、ゾーリン支部長より、試合の進行が不明瞭で申し訳なかった、とのお気遣いのお言葉を頂きました。しかし、ボクシングでも、キックなどでも海外で試合をするというのは本当に大変なことだと聞きます。ある先輩に今回の事を話すと、「それはまだマシな方だ。タイなんかでは・・・」というお話しを聞かせて頂き、この程度でペースを乱されるほうが弱いのだな、と感じました。 帰りの空港にもたくさんのお見送りを頂きました。
ロシアの方々には本当に、本当にお世話になり、感謝の気持ちを上手く伝える事ができず、心残りでした。もし次があるなら、もっと言葉を勉強して行きたいです。
搭乗口ではエメリヤーエンコ・ヒョードルがいてびっくりしました・・・。

成田空港から池袋までの道のりでは、水田や新緑がとても綺麗でした。「オレはこの時期、この景色の日本が本当に好きなんだ」とビールを片手に言われる先生のお言葉にも、本当に納得できました。
今回の遠征では、結果こそ出せませんでしたが、今後に向けての課題もでき、かなりの刺激を受けることができました。もっともっと、強くなりたいと思うことができました。伊賀なんかもかなりショックを受けているようですが、早く復活しようね。ロッキー・バルボアや矢吹丈のように!
そして、今回一緒に旅をさせて頂いた手品師の今野さん、サーファー兼ギタリストの鈴木君、ありがとうございます。2人と仲よくなれたことも、今回の大きな収穫です。
東先生にも本当にお世話になりました。最初から最後まで暖かくお気遣い頂き、総本部に帰ってきてからはあまりに良くしてくれるので泣きそうでした。
最後になりますが、自分たちを送り出してくれた大道塾と、塾生一人一人に本当に感謝したいと思います。今回の経験を少しでも周りの皆様に生の声として伝えていきたいと思っています。
以上、長文、駄文失礼いたしました。押忍

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