散打対抗戦始末記

平成15年12月12日

東孝

いつものように日誌風な遠征記を、と思っていましたが、大道塾に対する好悪を問わず"風評"だけが一人歩きし、塾生の中からも問い合わせが来ているので、取り敢えず簡単な経緯と結果、今後の対応などをまとめて見ました。

そもそも、この散打との試合の話は9月初めに、これまでも大道塾を取上げていてくれていた、中国の格闘技雑誌編集者からの要請から始まりました。

話を聞くと、試合がウチの「北斗旗全日本」の1週間前、11月23日。しかも相手は中国では軍に次いで2番目に強い公安警察の選手団だとのこと。日本側では実力のある選手はみな全日本に出場するし、若手にしても"経験"というレベルではない。その上更に、例の中国での破廉恥事件があったりしたので(前回の試合では、それでなくとも「日本人は殺せー」の"歓声"でした)「今回は無理だ。来年、もしWARSなどをする場合に、互いにベストメンバーで」と断りました。

所が、その後、1ヶ月半ほどして再度、「他の団体にも当たったが、投げ技があるということで応ずる団体がなかった。公安警察の一部門の主催(!)で政府高官が列席し、TVで全国放送(視聴者2億人!)するのに、これではわれわれの信用がなくなってしまう。もう止めるにしては時間がない。選手のレベルを合わせるから何とか協力して欲しい」と何度も切望して来ました。

勿論、以前から"中国との交流の難しさは"様々な情報で聞いていましたが、そこまで言われたなら、「同じ武道(中国では武術)をする者同士の友情として、彼等の苦境に知らぬ振りも出来ないだろう。ましてや、こちらが日程的に難しいのを押しての参戦を分って感謝しているのだから、信用して良いだろう。民間団体ではなく公安警察の一部門が主催するのだし」と考えました。

そこで、
1.こちらは経験の少ない選手しかいないのだから、それにレベルを合わせること
2.次の世界大会への繋がりにもなるように、「第一回全世界空道選手権」のビデオをTVで5分以上放映すること
3.フアィトマネー(大道塾的には武道奨励金)は向こうが提示した60万円
と、いう三つの条件を記した、契約書を交し協力することにしました。

ファイトマネー(大道塾的には「選手育英基金」)について 
相手のたっての要望に応えて行う試合ではあるが、こちらとしても少しでも『空道』を幅広く出来るならという想いもある。しかし、それとは別な観点で、その試合が"プロ興行"として行われる試合であるなら、いわゆる報奨金(ファイトマネー)に付いては、アマチュアの本家というべき、体協加盟の団体がしているように、一旦その報酬を団体の維持運営費(大道塾的には「選手育英基金」など)に納めて、そこから選手の参加経費として支払えば問題はないだろう。

もし「我々はアマチュアだから一切報酬は要らない」となったなら、資金的に余裕のない大道塾にとって貴重な「"変なしがらみ"の生じない海外での経験」は一切出来ないし、20年前のムエタイとの試合と同じで(全くの無報酬)、それこそ「突付けば無報酬で利用できる、プロにとっての"良いカモ"のアマチュア」になってしまうでしょう。

「選手育英基金」への納入分とは?―「他団体の試合へ出場する時は、そのファイトマネーの30%を、「選手育英基金」に納入する。この基金は大道塾の選手が、海外遠征やWARS等をする場合の費用(旅費が出ない場合の航空運賃、地方からの塾生の交通費や、諸経費)に充てられ、大道塾全国運営委員会が管理する。」(平成5年2月の第11回全国運営会議の取り決め)

(尤も、今回は試合当日支払いの契約でしたが、「ウッカリしていて、換金を忘れていたので、今、円でもドルでも払えない(!)」という事で、平成15年12月11日現在未収です。)

以上の経緯で中国に渡った所。「こちらは経験の少ない選手しかいないのだから、それにレベルを合わせること」に関しては、試合前の計量では向こう側の三選手が3〜5kg(!)のオーバーしているにも関わらず、そのまま試合を成立させようとするし(グローブを着ける試合で3kgの差は考えられません)、選手のレベルも契約する前に聞いた時には、日本側と同じように「記するほどの戦績はない」と言っていたにも関わらず、競技人口300万人、プロ選手600人―前回の試合での、散打最高責任者の話―の中の、何がしかの"チャンピオン"でした。そんなこんなで、結果的には中国側のマスコミで高らかに勝利宣言されましたが、(実力通り)で6戦全敗でした。

そんな中でも前述の編集者は先日このHPにアップしたような公平な報道をしてくれました。

試合内容に関しては、殆ど大試合初出場という日本側の選手達は善戦したと思います。余りにも大きな差があった2試合は別にして、そう悲観するものではありませんでした。特に女子の山崎裕子選手(4級)は体重差6kg、女子60kg級散打チャンピオン、楊光選手を相手に逃げずに向かっていき、彼女をして「他の選手なら倒せたのに」と言わしめました。又、末広智明選手も中国前衛VS.タイ皇家警察搏撃対抗戦62Kg級チャンピオン、曾凌選手に接近してからの膝を度々ボディに入れ、何度かは体を"くのじ"にしました。結果はダウンと同じ2ポイントになる投げ(!)を度々貰って為破れましたが、ムエタイや空道的な判定規準では、文句なしの判定勝といえる内容でした。

山東省散打大会65Kg級チャンピオン 于洋選手と戦った吉野高平選手にしろ、76kg級の契約だったにも関わらず、中国前衛Vsタイ皇家警察対抗戦81Kg級チャンピオンの宗保選手と戦った松下靖史選手にしろ、良く3ラウンド戦い抜きました。

冒頭でも述べたように、彼等はまだ全国レベルの選手ではありません。レベルを合わせるという契約があったから、試合に応じたのですがそう言えば、「そんな程度の選手を出すなんて、無謀だ」とか、逆にまた、向こうに着いてから「話が違う。試合は止めた」としていれば、今度は「逃げて来た」とか言う批判はあるのでしょう。今の中国でそんな事をしたのなら、それこそ試合場で"暴動"が起きたでしょう。(ある意図を持って大道塾、空道を見る人には、何を言っても"言い訳"になるのでしょう。)こんな悪条件の中にも関わらず戦い抜いた選手には、私としては「良くやった」と言ってやりたいと思います。"臆面もなく"(笑)。

また、2の条件「『第一回全世界空道選手権』のVTRを確実にTVで放映する」については。約3時間の生放送(!)でしたので「VTRはすぐに送れる」というので待っていましたが、3週間経った12月11日にやっと「今日、明日には送る」という答えはありました。まだ届いていませんので、2の条件が守られたかは今の所確認できておりません。

個人にしろ、団体にしろ、極力、先入観は持たないというのが私の信条ですが、そんなこんなもあり「中国との交流は実際難しいなー」という感想は持ちました。しかし、前述の編集者のような例もあるし、隣国中国とは今後もいろんな意味で付き合って行かなければならないのが"現実"ですから、なるべく良い方向に向けたいものと思っています。

どちらにしろ、今回の試合に関しては全敗でした。納得して行った事ですのでインタビューでも言ったように、ルールの所為にする気はありません。また、散打そのものが目的ではありませんので、散打での復讐戦をするという気もありません。選手たちも書いているように、この海外で試合をしたという経験を今後の「空道」の試合に生かしてくれれば良いと思います。今までの選手がそうだったように。

ただ、この試合に協力した事で、向こうが、「交流は互いに有益だ」と思ったなら、今度は「空道ルール」で戦ってみたいものだとは思っています。決して自分達のルールだからと言って安易に考えて言ってるわけではありません。向こうはグランドの経験が少ないとはいっても、プロとしての身体能力を持った圧倒的な選手層であり、「柔道でも国際レベルの選手がいるので寝技も2、3ヶ月あればやれる、(リンクを翻訳した先日の日本文参照)」と言っているくらいですので(さすがに、それには「まさか」とは思いますが)決して侮れる相手ではありません。それでも交流は継続すべきでしょう。

どうしても「経験が」というのなら、半分が「散打ルール」で半分が「空道ルール」でも良いです、とは言って来ました。これを皆さんに見てもらえる「WARS7」というような場でやれれば素晴らしいのですが、向こうは公安警察ですので、簡単に来日は出来ないのかもしれません。そうなれば又、向こうに出向いてとなるのでしょうが、その場合は又別の問題が生じて来ます。主催者(という事は莫大な経費を負担するようでしょう!)をどう考えれば良いのか?です。今、対戦の可能性も含めて、向こうの返事を待っているところです。

最後に今回の試合は先日の翻訳文のインタビュー欄でも述べているように、「空道」の中国本土での普及と、「大道塾が空手を代表している訳ではない」との考えで、常に「空道」と発言していますが、中国側は、「散打VS.空手」ということで宣伝していた為、全て「格闘空手」や「空手」と直して載せています。御了承下さい。

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