2002北斗旗 全日本空道無差別選手権大会」について
NPO法人 国際空道連盟 理事長     
大道塾総本部 代表師範・塾長 東  孝

今年の「02北斗旗 全日本空道無差別選手権大会」は,予想通り、「第一回世界空道選手権大会」重量級優勝,「02全日本空道体力別選手権大会」超級優勝の、藤松 泰通(やすみち)の優勝で終わった。大会も終わって一応の論評が出揃った所で、大会を振り返り総合的にマトメて見たいと思う。

まず,世界大会後という事で、昨年まで出ていたベテラン,強豪の多くが今回はエントリーせず,知名度のある選手が少なかった事もあって、私的には“折り込み済み”の事ではあったが,前評判は予想以上に盛り上がりに欠けるものだった。(観客に付いては最後段にて考察。) しかし、ウチのようなプロの団体ではない、職員、寮生以外の殆どの選手が仕事を持ち,あるいは学生であるような所では,大きな大会の前にはある程度、仕事を大目に見てもらい(サボり?)ながら練習を続けている選手が多い。そんな選手に毎年、毎年最高のコンディションで、試合に望めというのは、酷である。

ましてや大きな資金もないくせに,自分達の理念を通そうとする貧乏団体が、「実力はあるぞ!」と意気がって“分不相応”な「世界大会」等という派手な“打ち上げ花火”をするのは、遠目で見る人には、「綺麗だなー、素晴らしい!」としか見えないだろうが、打ち上げ師(主催者)や、近場で見上げる周辺の人間(塾生)にとっては騒音問題(内部からの「そんなに協力、協力なんて言うなら、世界大会なんてしなくても良い(なんと!?※1)」や外部からの「運営出来んのかよ」や「勝てないくせに」とか「負けたなら大道塾はお終いだな」)や,火花(アドレナリンが大量に出るので選手は反抗的になるし、支部長も熱くなってトゲトゲしくなって来る),降灰(ずばり、請求書!)などの “環境被害”が極めて大きい。

(※1 所が「しなくても良い」と言われても、1年遅れで確実にその好影響は、今年の入門者数や新人の発掘等に出ているのだが,そうなっても、改めてその関連を有難がったり、発言を振り返ったりはしない。ま、世の中はそんなものだ、と充分に勉強はして来てるので、どうでも良いが・・・。)

確かに、見る方もやる方も「世界を相手にする」という“極東の島国、日本”の人間にとっての“民族的な夢, 歴史的悲願”を体験でき“幸せ気分”には浸れる。しかし、打ち上げが終わってから主催者に残るのは、しこたまの“花火の残骸(負債)”だけで、次の日には夢から否応なく覚醒させられる。

従って、一度したなら、1、2年の猶予を貰わないと組織力も選手も「原状回復」はできない。「ま,背伸びしてるんだから無理もないか」と勘弁してもらうしかない。必死の頑張りで一応の結果を出したんだから、あの成果でずっと通したい,二度とあんな思いはしたくない」と言うのが主催者側の本音だが,一旦“人騒がせな事”をして,人々の耳目を集めた“打ち上げ花火”は,家族で地味に楽しむ“線香花火”と違い,見る側の人に期待(と“それなり”の賞賛)も生んでいるので,自分達の都合で一方的に「もうしません」じゃあ済まないので、これからも継続しなくてはならない。

しかし、そうは言われても、大道塾は親方日の丸でも,○○傘下(コワイ!)でもないから,“公的資金”や“裏金”はどこからも出ない。この上、無理を重ねれば“債務超過団体”か“不良債権”になってしまい社会のお荷物になってしまう。となれば, ある程度の周期でピークを迎えるという作戦を取らなければならないのも、ご理解頂きたい。

だが、逆にそんな大きな大会の狭間の、今年のような(赤字も小さくて済むような‐シツコイか?)大会だからこそ生まれる成果もある。これまで“それなりの実力”はあり,地方予選は通過し、全国大会に出場はするものの、“当事者(前線?)意識”がなく「先輩が上にいるから良いや」と、“それなりの所”で敗れ,あとは上位戦を“ノンビリ”と眺めたり、“応援”に回っていた中堅選手に「今度は俺が主役だ!」という自覚を持たせる為には絶好の大会である。

また、将来的には「北斗旗」を背負えるような“芽”はあるが、今、強すぎる先輩と戦ったなら却ってその“芽”を摘んでしまうという若手には、程好い実力差の相手と、大東京の「代々木第2体育館」で「北斗旗全日本大会」の試合場に立つ、その高揚感や緊迫感,達成感を経験させ、より一層のやる気を呼び起こす事が出来る。この選手達の中の何人かが「明日の北斗旗」を支える選手に成長するのだ。

さて、そうはいっても今最も注目されている総合武道の魁(さきがけー先駆け),数々のドラマを生んできた伝統ある「北斗旗全日本空道無差別選手権大会」である。(注:今年からこの無差別大会にも「空道」の冠がついた)試合が近づくに連れ、いくつかの注目する試合がクローズ・アップされてくる。

まず、昨年の世界大会や今年の体力別を通して、最も戦績が安定している藤松 泰通が恐らく一番手だろうが、どういう内容で無差別を制するのか?次の世界大会に繋がるような戦いを見せる事が出来るのか。勝つのは当然で、どういう勝ち方をするのかが問われる大会だ。

次にその対抗馬になると目されている清水 和磨。調子の良い時と悪い時の差が大きく、試合にムラッ気が出る傾向がややあり、これまでも実力はありながら,どこまで“あて”にして良いのか?の付く選手だった。今年の体力別の重量級では目の醒めるような快進撃で優勝したものの、今大会は,前評判通りに決勝まで進出するのかどうか?真価が試される大会だ。

又, 大道塾の地区予選へ今年から他団体の選手(原則として非プロ)の参加が可能になった途端,なんと194cm,105kg,身体指数299という超巨体選手で、この一,二年、新空手や他の大会でも準優勝や優勝をして,関東大会でも堂々の優勝!これまでの身体指数最高値、314のセーム・シュルト(※2)と同じように,この「北斗旗」を手土産にプロに転向したいと公言する,アレキサンダー・R・ロバーツが、本大会ではどこまで進出するのか?そのロバーツに金子 哲也の雪辱はなるのか?

年々地力を付けてはいるが、大味な試合が多く詰めが甘い為、これまで度々上位に今一歩及ばなかった寺元 正之が、早くも次の世界大会「軽重量級」獲りを宣言し、関西地区を一蹴しての出場!全日本の場ではどこまで行けるのか?同じく軽重量級優勝の若月 里木や軽量級優勝の伊賀 泰司郎はどこまで無差別で通用するのか?急遽出場を決めた,アレクセイ・コノネンコは?といった所だった。

※2:始めて参加した‘94年北斗旗が身長204cm、体重103kgで身体指数307。優勝した3年目の’96北斗旗では身長210cm104kgで314、とこれまでの北斗旗史上歴代第一位の身体指数。4年目の2連覇後はパンクラス,K−1等、プロの試合に進出し様々な団体で次々とチャンピオンクラスを破り,今や格闘技界の台風の目となっている。

さて今大会を全体的に見ての印象は,藤松の実力は安定しているものの,大会の成功不成功の鍵を握るのは一方の対抗馬とされる清水だ。充分な潜在能力があり、その気になれば素晴らしい闘争心を発揮するものの、勝敗に淡白で,今一つ欲がなく今年の体力別でやっと目の醒めるような試合を見せたものの,その気がないときはあっさりと勝負を捨てるため、これまで無差別大会で上位に入賞した経験がない。その清水に、やっとエンジンが掛かってきた!とは言っても、体力差37のロバーツにどんな戦いをし掛けるのか?果して無差別でも体力別と同じような“切れる技”を見せるのか?ロバーツの発言を聞いて「北斗旗を舐めてる。思い知らせてやらなければ!」とは言うが,その言葉を実現できるのか?

又、予選でも始めは向かって行くが、敵わないとなると逃げ回る“今時の選手”のような「弱い者には強く,強い者には弱い」試合になるのではないのか、との「考えるだけで背筋が寒くなる“怖さ”」もある。この試合は「大道塾の新世代が次の世界大会を引き受けられる“資格と覚悟”を持っているのか?」を占う重要な試合となるだろう。今後、藤松の対抗馬となると見られている清水が、万が一,そういう試合をしたのなら「北斗旗」の評価も正に“風前の灯”だ! 

試合結果(※3)は大道塾のOfficial HP (daidojuku.com/)に写真入りで出ているので,見て頂きたいが、別な観点から見所や注目点を説明するので、TV放送観戦の参考にして頂きたい。
(衛星放送“GAORA” にて下記の日程で放映。
・12月21日 23:00から01:00      ・12月24日 10:00から12:00
・ 12月28日 05:00から07:00 )

(※3:三回戦までは僅少差の時のみ延長があるが、基本的に「本戦」決着。三回戦(準決勝)よりは「本戦」3分間の間に「有効」を2本以上か、又は,「有効」1本+「効果」2本以上を取らなければ「自動延長に」なるので両選手の持てる力をじっくり見れる)


第一試合は上体をリズミカルに上下動させながら突進し,左右のフックをブンブン振り回して殴り掛かり、組み付いては高校時代には国体で三位にまでなったレスリング仕込のグランドで圧倒しながら勝ち上がった石田圭市が、同じように2分過ぎに組み付いた。所が、この若さで既に試合巧者の藤松 泰通、それを逆手に取り「北斗旗」ならではの「頭突き」で見事に「効果」を奪う!更に一旦、立ち上がるが又グランドになりと、得意の腕拉ぎ逆十字固めで「一本」勝ち。石田もレスリング出身だから寝技には矜持(プライド)があり、倒す事(テイクダウン)は上手いのだから、逆を取ったり,締めたりをもっと研究すべき。大道塾は選手寿命が長いのは今や有名だが,この石田も,‘90年に無差別大会で準優勝してから途中ブランクがあったとは言え、今だに現役を続けているのは立派である。

第二試合。伸びのあるストレートパンチで、3回戦では大先輩で今年の軽重量級優勝の若槻里木を延長の末に破り、ベスト8まで勝ち上がった平塚洋二郎と、1回戦から「足払い+極め」、2回戦「送り襟締め」、3回戦「腕十字固め」と危なげなく勝ち進んできた寺元 正之。若武者平塚、大先輩相手にどういう戦いを見せるか?が、しかし,寺本,一本調子の平塚に地力の違いを見せ、掴んでのアッパー、頭突き、投げと圧倒し、延長まで粘った平塚を、5−0の判定勝で下した。平塚まだまだ経験が少ないから仕方がないが、右ストレートからの返しの左フックやアッパー,更に身長差を生かし、膝蹴りや肘打ち等を交え試合に変化を付けたい所。

第三試合はアレクセイ・コノネンコ対清水 和磨。双方どちらも打撃もグランドも出来るので,闘いに切れ目がなく、これが「北斗旗だ!」というような試合だった。コノネンコは練習不足というが力強いパンチは健在だ。どんどん前に出て得意のワンツーで清水を追い立てる。いつも言うように対外国人対策を考えた時、軽重量級のコノネンコと重量級の清水では、10の指数差があるが体力はほぼ互角といって良い。清水が打ち負けるのではという危惧があったが、今年の清水は堂々五分以上に打ち合い一歩も引かない。グランドでは度々マウントを奪い攻勢に立つほどだったが、そこはコノネンコ、簡単には決めさせない。それでも後半、コノネンコがワン・ツーで出る所に清水、得意の左フックをあわせたりし、徐々に優勢に立ち、延長1回で4−1の文句なしの判定勝ち。

第4試合。今日の大一番。そして金子 哲也にとっては、関東予選での「送り襟締め・一本負け」の雪辱を期したい、対アレキサンダー・ロバーツ戦。しかし、ロバーツ、ここまでの三試合は1回戦こそ同じく関東大会の雪辱を期す、川人幹也とのみフルラウンドを許し「右ストレート・有効勝ち」だったが、次からは、0分35秒と1分30秒でので「腕絡み・一本勝ち」と全く相手を寄せ付けない。一方の金子、体調万全で戦っても僅かな勝機なのに、いかんせん前の川口との試合で脇腹肋骨を痛めてしまった。例によって1,2打の応酬の後は、関東大会でも後半もう少しで「効果」という程だった、相手に左半身を密着しての右膝蹴りに行く所を、ロバーツ今回は読んでいたのだろう、足払いで転倒させられた。後はそのまま、押さえ込まれ脇腹を打たれ、その痛みに気を取られている内に腕絡みを極められてしまった。


ここで、関東地区運営委員長で、直轄・新宿支部、高橋英明師範の「大道塾護身の型」の演武。前回の「塾長コラム」の「再び、型の意義に付いて」でも書いたが、大道塾は今、1人で一連の技の連続をするいわゆる「型」ではない、「護身型」の研究に取り組んでいる。これは健康と護身を考え50歳台以降もコンスタントに体を動かしたい人達の為の「打撃を含んだ、実際に役に立つ護身術」である。

一般部にとっても、緊張の中でせざるを得ない打撃技、蹴撃技の応酬を、パターン化された攻防で神経を張り詰める事なしに、気軽に練習できる、という優れた面がある。

また少年部にとってはある程度勝手気ままに出来る、自由組み手とは違い、指示された技の連携を練習する事で、年長者の指導に従うことや上下関係を覚える、等の“教育効果”がある。


さて、愈々、準決勝第一試合。藤松 泰通対寺元 正之。この試合も良い試合になった。北斗旗で上位に入るには、当然、打撃のレベルが高くなければならないが, やはりグランドも一定以上出来るという選手同士の試合が見応えのある試合になる。今大会の藤松は“本命”を意識したからという事もあるのだろうが、少し動きが固く、この所、「体力別」、「WARS‐6」と大幅な進歩を見せていた打撃はイマイチだったが、その分グランド戦で取ってきた。一方、寺元も力強い打撃だけではなく、一通りグランド技もこなすので中々投げや、寝技でも取らせない。緒戦では逆に藤松のお株を奪うマウント態勢をとったり、投げを二、三度決めたりまでした!打撃、投げ、蹴り、グランドと両者一歩も引かない、緊迫した攻防が連続する、手に汗を握る素晴らしい試合になった。3分で決着が付かず、「自動延長」。

これも北斗旗の歴史に残る良い勝負になるかと思われたが,この後打撃戦の膠着に見切りをつけた、藤松が、オールラウンドプレーヤーの面目躍如と言って所か、1分半あたりに、意表をついて“カニバサミ”から膝十字固めに行った所、「知らない技は尤も怖い」の鉄則どおり、寺元はなす術もなくタップした!藤松文句なしの「一本勝ち」。寺元、打撃戦では押していただけに惜しまれる敗退だった!

さて、準決勝第二試合。この大会の成否、いや第二回世界大会の先行きをも占うであろうこの試合。ここまで圧倒的に勝ってきた清水 和磨が、アレキサンダーロバーツと決勝進出を掛けて,激突!しかし、いかに,巨体だけではなく, 飛び膝蹴りといった身体能力を要求される技を難なく使い、長身から打ち下ろしような打撃にも威力もあり、他団体でそれなりの戦績を残してるとはいえ、初出場の選手に苦杯をなめるようだと、後に藤松がいるとは言っても正に「北斗旗」の権威は“首の皮一枚”だ!世界大会に向けての士気にも甚大な影響を与えるだろう。ここは「判定でも良いから絶対に勝って欲しい!」と大道塾の誰もが思っただろう。清水自身も、今年8月の“ラトビア遠征”での鮮やかな勝利があり、対外国人には特に恐れもないし、試合前の言葉もある、ここは絶対に負けられない所だが。

色々な想いが交錯する中、試合開始!清水やや緊張した面持ちだったが、開始早々から思い切りよく前に出てパンチのラッシュ。これに呼応したロバーツも、パンチを返す!「まずい!体力のある外国人選手とは打ち合いは避けろ!」と思いながら見ていると、次に、ロバートの長いリーチの左ジャブをパーリーして、もらわないようにし、得意の、そして今日要所要所で威力を発揮して来た右のローキックを出す。これがうまい具合にカウンターで入りそれなりのダメージとなっているようだ。と思った瞬間、すぐその後、ロバーツにとっては中段程度だろうが、右のハイキックが清水の頭を直撃する!皆がハッと思った一瞬だった。

が、意外と腰が入っていない為かダメージはない。清水、すかさず、そのまま腰を落としながら、その右足を右脇の下に入れ替えて右腕でガッチリとロックしてグランドに移り、それでもロバーツが頑張ると見るや、体を左に回転し抱き寄せての防御を封じる裏アキレスに。それでも足が長すぎるのだろう、中々決まらない!もう少し手首を上に移動できないかと,ジリジリしながら見ていたが、30秒の寝技タイム終了直前、ロバーツたまらずタップ!昨年の世界大会で苦戦に苦戦を重ねた日本勢が見せた“感動の勝利”に勝るとも劣らない、場内割れんばかりの大声援。まるで決勝戦が終わったようだ。

事実、あの一戦で清水は全精力を使い果たしていたのだろう。十分間の休憩後の決勝戦。互いに力は接近している上に、緒戦から互いに、突き、蹴り、投げ、グランドと、持てる技と力と気力の全てを出し局面が千変万化する、激しく強烈な技の応酬で始まったから「ベスト8」以降の清水VSコノネンコ戦や、藤松VS寺元戦のような「これが北斗旗だ!これが空道だ!」と言わんばかりの迫力を感じて「1,2回戦の多くの凡戦の“憂さ”を晴らしてくれる」と、場内は否が応でも盛り上がる。しかも力が均衡している上に、互いに“穴”がないから丁々発止の応酬も、明確な決まり技もなく、「自動延長」へ!

さあ、延長戦はどうなる!場内の歓声、期待は爆発寸前だ!しかし、しかし・・・、清水の頑張りもここまでだった。試合再開後、徐々に清水の動きが悪くなり始めた。藤松の攻撃に対し反撃するのだが、ワンテンポ遅くなる。打撃も強さを感じない。遂に、戦前危惧された,清水のムラッ気,試合に淡白な性格が出てしまった。2分前に藤松の左大外からの巻き込みに倒れると、普通の気力、体力がある時には掛かるはずのない、袈裟固めでそのまま腕を膝に乗せての「腕拉ぎ膝十字固め」であっけなくタップ!


新世代による歴史的な名勝負になるかと思われたが、結末はあっけなかった。しかし、とはいうものの“今回だけ”は清水を責めるのは可哀相かも知れない。「ストッップ!ロバーツ」の重圧。初体験の「無差別大会決勝進出」、普段は朝の3時4時からの仕事(鯉の養殖)で昼過ぎに上がり、一眠りしてからの練習。「終わって車で帰る時は眠くなるから気を付けないといけないんですよ」といった、仕事と稽古だけの日々。金曜日に2時間掛けて総本部に来ての土日しか、対人稽古が出来ない等の練習環境、等々を考えると、“今回は”良くやったとしか言えない。

しかし、敢えて言うならば、それは“一流”と呼ばれるようになった人間なら、誰でもが形は違っても一度は通り抜けた道だ。そして、今現在、清水と藤松の間には総合的な力の差は殆どない。もし,万全のコンディションで闘ったなら、先日の決勝の数倍素晴らしい、最高の勝負が出来るだろう。だが、残酷な事を言えば、藤松は職員として忙しいとは言いながらも、一日中道場にいる以上、毎日練習はできるし、毎日の朝錬と、週に2,3回の昼錬も出来る。練習量を考えたなら、これからは差がつく一方だろう。

ところが一方、藤松も世界大会を超級として戦うのなら、練習をしながらもう一回り体を大きくしなければ超級では決して容易ではない。それ等を考えたなら、厳しさは五分である、いや逆に清水は一階級上の藤松と競って行けば、世界大会で外国人の重量級の選手に当り負けする気遣いはないはずだ。ここで気を緩めないで「絶対に一度は無差別を獲るんだ」という気持ちを維持して欲しい。

また、藤松は今大会決して絶好調ではない。決して弱音をはかない男だが、だからこその疲れもあるのかもしれない。無差別が終わって新年を迎えるまでの一ヵ月は総本部にとって最も平穏な日々だ。その間には年末年始の休みもある、練習、練習も良いが、充分に気分転換して英気を養い、精神的なコンデショニングを整え、来年に備えるのも真に一流の資格だ、心して欲しい。

その藤松が、本調子でなくても勝ち上がるのは、絶対の自信を持っている寝技があるからだが、逆に言えば、大道塾には攻撃より数段習得しやすい“受け(ガード)”を30秒だけでも完全に出来る選手が少ないという事でもある。その証拠に3回戦の中谷は藤松のグランドを凌いで、3分間立ち技の勝負をしている。準決勝で寺元に中谷のレベルの寝技があったなら勝機は十分にあったのだ。

それは藤松にとってもマイナスだ。なぜなら、寝技のレベルの低い選手に、寝技で安易に勝つ癖をつけると、寝技主体の選手が、打撃の選手の振りをして寝技戦に持ち込んで来た場合には、思わぬポカをする恐れもあるからだ(世界大会での山崎VSストッパ戦)。世界大会などに出る海外の選手は、武道の指導が“仕事”として確立しているから、ビデオにもなってる日本側の選手の情報は、費用を掛けても日本在住の友人や通販といった様々なルートを通じて集められるが(前回のラトビア遠征時の「北斗旗」海賊版の話を思い出して欲しい)日本側には相手選手の情報が中々入らない。これが怖い。かと言って、試合である以上、取れる時に取っておく事は当然なので、要は他の選手もしっかりと寝技を(少なくとも30秒間位は耐えれるレベルには)研究して欲しいという事になるのだ。


今大会の成功不成功という意味では,当初の予想通りでも以下でもなかったという意味では、まあ、満足しても良いだろう。新人の発掘という点でも、ベスト8に始めて入った選手は当然としても、その他にも何人か「これは楽しみだ」という選手が生まれた。世界大会軽重量級4位の渡辺正明を下して、ベスト8に入った、三浦 隆義(29歳、1級 244)。3回戦まで進出した他団体の強豪、鈴木猛選手に延長戦まで食い下がり、良い勝負をした高木 恒成(19歳、1級、267,5)。コノネンコを相手に残り1分の所でパンチで「効果」を奪われたが、3分間フルに闘い抜き寝技では取らせなかった矢野 義祐(1級、26歳、237)。中量級だが、関東大会では重量級や超級を破り堂々ベスト8に入り、本大会でも超級の若武者、平塚洋二郎に敗れたものの「判定」だった千葉 和希(20歳、2級、235)。関東大会、本大会とロバーツには始めのみ打ち合えただけで、結局二立てをくったが、果敢に向かっていった川人 幹人(22歳、2級、249)といった所が、これからの芽として少しだけだが、頭角をあらわしてきた。

日本経済がバブルの破綻処理に失敗して不景気に陥ってしまった90年代の“失われた十年”じゃないが、今フルコン系は、寝技格闘技が異常に流行したこの10年の為に、既に入門していた“当時の若者で、今は30歳台”の層と、やっとここにきて「綜合でも打撃が必要だ」と認識されて戻りつつある“現在の若者の10歳台”の間、20歳台の中堅層が足りないといわれている。若者は「何をすることが自分を輝かせてくれるんだ?」と、常に時代の流れに敏感だ。大道塾も例外ではなく確かに影響を受けはした。が、大道塾はこの“寝技ブーム”で始めたのではなく、設立当時から「現実の護身にはグランド技も必要だ」との認識で研究、実践を重ねていたので、全くの打撃系よりは軽症で済んだのは幸いだった。

昨年の「第一回 世界空道選手権大会」や「WARS‐6」等々の“場”でも,「打撃を中心とした,しかし,現実に即して投げ,技やグランド技にも対応できる“空道”」として“実際に証明できた”事で, さらに若者に訴えたのだろう、今大会には間に合わなかったが,今、年末の審査会で地方を回っていると、「世界大会に出たい!」という、20歳前後のやる気満々の若者や、20歳代後半ではあっても「グランドにも対応出来る打撃に(“一撃必倒”の)夢を求め,しかし“武道”である事」を求めている、フルコン経験者(体力はあるし、接近戦での打ち合いに強い。短期間で4級以上の顔面パンチの習得に移れ、「空道」に進める)が必ず各地に何人か見つける事が出来る。こういった人材と、今年は休養したが、次の世界大会を狙っているベテラン・中堅との凌ぎ合いの中から、「北斗旗」を、いや日本を支えてきた「日本の武道」を守る心技を、塾生一丸となって築き上げて行きたいものである。


最後に、集客力の問題について。大道塾は、資金的にも無理な事もあるが、常々「殊更にプロ的、興行的な煽り方で観客を集めるのではなく、競技をしている人で『代々木第二体育館(満員で約4300人)』が一杯になるのが理想だ」と言っている。勿論、それで一杯になるほどの競技人口が関東地区にいないのも確かだから、直ぐには無理だと分ってはいる。しかし、関東地区の塾生の1/3が集まっても、更に言えば友人の一人を誘って来ただけでも、半分以上の席は埋まるはずである。

「去年あれだけ入ったのだから、少なくとも去年の半分位は」、との私の考えも甘かったのだろうが、内容が良かっただけに、もっともっと多くの人に見て頂きたかった。確かに、入場料に関しては事務局の手違いで、昨年と同じ料金をマスコミに流してしまい、何人かに指摘されて、急遽インターネット販売を通した場合は一昨年並みにしたというような不手際や、資金的な意味では、先述したように、今年は昨年の「世界大会」や今年の「WARS-6」の“置き土産”もあり、“緊縮財政”の中で開催しなければならなかったのでポスターも駅張りも、雑誌広告もしていない、という事情はあるにしろ、何とかしてこの状況は改善しなければならない。

ではどうやって観客を集めるかという事を考えた場合、今は見る方も、多くの資金を掛けたプロ団体の、派手な演出の試合が多く、自然にそれに慣れ、昔ほど、フルコン系の団体の試合だといってもアマの大会に、多くの観客が集まる時代ではない。フルコン系の団体で集客力のある所は、何らかの大きなスポンサーの後援を受けているから宣伝もプロに負けずに行えるが、独立自尊を通そうとする大道塾にはその路線は無理である。そうなれば塾生全員の努力で集客するしかない。いつでも本部ビジネスマンクラス中心だけの協力では、限界がある。良く、応援して下さる方々には「関東地区の塾生は全員強制的に観戦させたなら良いじゃないの」とも言われる。所が、である。

ある支部長に、「塾生を試合観戦に誘ってるか?」と聞いたところ「若い連中に『大会観戦に来るんだろう?』と言っても、中々『来ます』って言わないんですよねー、自分の所属する所の全国大会なのに、しかも、いずれ自分が試合をする上で絶対に勉強になるはずなのに、ウチの連中は何考えてるんでしょうねー?」と溜息をつかれた。大道塾はこういう世界にありがちな、ノルマ的なことはしたくないとの設立以来の方針で、極力、自主性に任せているのだが、そして確かに、だからこそ「風通しの良い大道塾」として社会的に信頼されている部分が大きいとは思うのだが、まだ黙っていても観客が集まるような組織ではないのだから、少なくとも関東地区の塾生は“自分達の大会”を盛り上げる意味でも、友人知人を誘って観戦して欲しい。

また、地方の支部長も、自分が地区大会を主催する時に「みんな、主催者じゃないと、申し込み期限は守らないし、試合の時に来るだけで、全然協力しないんですよねー」との嫌な経験があるのなら、また、弟子の中の、自分の潜在能力に目覚めていない将来の“世界戦士候補”に刺激を与える気なら、極力、多くの塾生を引率して欲しい。塾生も宿泊などは、若いのだから本部道場なら貸し布団代だけで泊まれる。そんな為にも無理をして皆で本部道場を設立したのだ。行けない場合でも、友人が関東地区にいるのなら、是非、観戦をすすめて欲しい。

あれでは日々苦しい練習を重ねて、やっと全日本出場の栄誉を獲得し、精一杯の戦いをしている“自分たちの代表選手”に対して失礼だ。既に大道塾は「世界大会」をする団体にまでなってしまったのだ。もう少し自分達の大道塾が置かれた立場への自覚が欲しいというのは、無理な願望なのだろうか?